第4話 ソフィアは魔法を試してみる

「申し訳ございません。現在女性担当の護衛は別のところで配属されてしまっていて……」

「お気になさらず。そもそも私などに護衛をつけてくださらなくとも良いのですよ」

「そうはいきませんよ。ソフィア様は我々騎士団だけでなく、王女も救ってくださったお方なのですから」


 何度も私の魔法で救われたと言われて、ようやくビギナーズラックとはいえケルベロスを退治できたんだなと実感してきた。

 だが、次同じようなことが起きたらおそらくは倒せないだろう。

 ケルベロスのようなモンスターはそうそう簡単には現れないだろうけれど、今後王都を出ていった後のことを考えると今のうちに魔法のことは覚えておいたほうが良さそうだ。

 私はそのようなことを真剣に考えていたとき、アーヴァイン様がとんでもないことを言い出した。


「もし……、少しでも私のことを信用していただけるのでしたら、私がソフィア様の護衛をしますが」

「え!? 騎士団長ですよね!? そんなに凄い人が私の護衛を?」

「本来は女性には女性の護衛を配属させるのが本国のマナーではあります。しかし、ソフィア様に誰も配属させないというのはあまりにも失礼すぎますので……」

「むしろ、良いのですか?」


 私は嬉しさと申し訳さの気持ちで戸惑っていた。

 アーヴァイン様は申し分のないほどの良い顔をしている。

 服で隠れ切れないほどの引き締まった筋肉はさすが騎士団長といった感じがする。

 見た目も素晴らしいが、王子様のような人柄でもある。

 今までこんなに優しく対等に会話をしてくれる人がいなかった。


 これほど完璧とも思えるお方が私のために時間を割いていただいてもいいのだろうか。

 それだけが気がかりだった。


「私でも良ければ喜んで命に変えてもソフィア様をお守りします」


 アーヴァイン様の真剣な眼差しを見て、私の心臓の鼓動が著しく上昇したような気がする。

 なんなのだろうか、この胸のドキドキ感は……。


「よ……、よろしくお願いいたします」


 奴隷生活だった私ですが、ついに護衛ができました。


 ♢


 騎士団長のアーヴァイン様が訓練場で活動するというから、私も見学させてもらった。

 騎士団というから剣技の訓練かと思っていたが、この国ではそういった概念がないらしい。

 騎士団とは名前だけで、剣技や投擲武器、魔法なども全てひっくるめて騎士団というそうだ。


 アーヴァイン様は剣技と魔法を使いこなし、魔法で強化された剣で岩をいとも簡単に一刀両断していた。

 動きや真剣な表情を見ていて、私はうっとりしている。

 カッコ良すぎて、目の保養になるし一生見ていられる気がした。


 ところで気がついたことがある。

 魔法も騎士団の訓練として可能ならば、私も魔法の訓練をここでさせてもらえないだろうか。

 私はアーヴァイン様にお願いをしてみた。


「ソフィア様ならば大歓迎ですよ。ただし、王宮は壊さないように加減をしてくださいね」

「そんな威力はないと思いますけど……」

「ソフィア様はケルベロスを一撃で仕留めたほどの魔力をお持ちですからね……」

「私、自分ではよく魔法のことをわかっていなくて……。実は、この前の件で初めて魔法を放ったんですよ」

「なんと!?」


 アーヴァイン様がとても驚かれていた。

 そりゃそうか。

 ビギナーズラックで倒したとなれば、私に対する評価も落ちることは間違いないだろう。


「素晴らしすぎる! その魔法の才能、是非基礎から学んで活用していただければ!」

「凄いのですか?」


 想定外の返事が返ってきてしまった。


「本来初めて魔法を放つ際は……。いえ、話が長くなるのでやめておきましょう。ところで、魔法属性の適性もまぐれだったのですか?」

「そうですね。なんとなく火なら使えるかなと思って発動してみたのです。でも、もしかしたら他の属性も使えそうな気もしちゃうんですよね……。だからこの訓練場で確かめてみたくて」

「本来は使える属性はひとつだけですからね。私は固有属性が使えまして、物質を強化させることしか出来ません。だから剣を強化すればある程度役に立てるかと思い騎士団を目指してみたのですよ」

「さきほどの訓練は見ててとてもかっこいいと思いました」

「かっこいいいだなんて……」


 アーヴァイン様は顔を赤らめながら恥ずかしそうにしていた。


「でも、あれだけも技量があればケルベロスも退治できたのでは?」

「そうですね。ただ、あのときは王女を護衛するというのが最大の目的でした。負傷者を出さないためにも、ケルベロスを巻けば余計な危険が伴わないと判断して逃げていたわけです」

「なるほど……」

「しかし、ソフィア様のように一瞬で退治はできないでしょうね」


 アーヴァイン様は自分自身を過小評価しているような気がするんだよなぁ。

 さっきの腕前を見ていたらそんな気がしてならない。

 私なんかよりもずっと強いと思う。


「念のために魔力のコントロールを最小限に抑えながら、他の属性の適性も試してみます?」

「是非!」


 アーヴァイン様から魔力のコントロールを簡単に教わった。

 教わっている最中、アーヴァイン様が真剣な表情をしている目に見惚れてしまったことは黙っておこう。

 もちろん、教えてもらったことはしっかりと暗記している。


「要は気をそらしながら、明日の朝ごはんなにかなぁなどと考えながら魔法を発動すればいいのですね」

「そういうことです。まぁ本来は魔法に集中するのですが、試しの段階ですのでソフィア様ならそのほうがよろしいかと……」

「ではやってみます」


 水属性魔法を発動してみよう。


「えぇと、(アーヴァイン様かっこよすぎるなぁ)『水よ姿をあらわせ……アクア……』」


 魔法の詠唱途中ですでに手から勢いよく水が吹き出るのを見て、詠唱を止めた。

 訓練場の私がいる周りだけ水浸しになってしまった。


「まだ詠唱が終わっていないのにこれだけの水を……? しかも本当に炎以外の属性も出せた!?」


 アーヴァイン様が目を大きく見開いて驚いていた。


「他の属性も試してみてはいかがでしょうか……?」

「は、はい」

「あと、魔力効率を上げるための詠唱もしないほうがよろしいかと」


 難しすぎてどう言う意味かわからなかった。

 恥ずかしながらアーヴァイン様に尋ねた。


「水よ姿をあらわせとか、炎よ渦巻けとか、魔法発動前に本来は言うべきことです。ソフィア様なら無詠唱でも出せるかと思います」

「わかりました。やってみます……」


 私は、このあと雷、光、土、風、氷、更に固有属性までも発動できることが判明した。

 いつの間にか、私の周りには訓練している騎士団が集まっていた。


「まさか全属性使える人がいたなんて……」

「人類始まって以来の快挙ではないか!?」

「騎士団入ってくれねーかなぁ……」

「さすがケルベロスを一人で倒しただけの才女……」


 私自身でもちょっと普通じゃないなって思ってしまっている。


「ソフィア様! もしかして、魔法では伝説と言われている回復魔法も発動できるのでは!?」

「どうでしょうか。やってみたことはありません。ですが……」


 私には心当たりがある。

 今まで奴隷生活を送っていた際に、虐待で暴行をひどく受けて毎回怪我をしていた。

 だが、どういうわけか翌朝にはすっかり元どおりになっていたのだ。

 婚約破棄を伝えた日も、剣で斬られて死んでしまったかと思ったら、ゴミ袋の中で目を覚ました。


 もしかしたら、無意識のうちに私自身で回復魔法を発動してしまっていたのではないか。


「もしも可能ならば、実験台として私の怪我を回復していただけないでしょうか」

「ちょ……!? アーヴァイン様!?」


 アーヴァイン様は上半身の服を脱ぎはじめた。

 思ったとおり、ものすごく引き締まった筋肉でかっこいい……。

 などと考えたのはほんの一瞬で、むしろお腹周りのひどい傷に目を向けた。

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