第3話 ソフィアは対談する

「うぅぅ……。あれ?」


 もふもふ。

 目を覚ますと地面がふかふかしていて気持ちよかった。

 どうやら天国に来たようだ。


 と……思ったのは気のせいだったのかもしれない。

 ふと周りを見てみると、さっき逃げていた一人の男が腕を組みながら目を瞑っていたのだ。


 私の目覚めに気がついたのか、すぐに目を覚ました。


「よかった。お目覚めのようですね」

「あれ……? 私……たしかケルベロスに殺されたはずでは」


 寝ぼけながら目をこすっていたら、男はクスクスと笑みを浮かべる。


「あなたのおかげで我々騎士団と護衛していた王女は救われたのですよ。ありがとうございました」

「救った……? えぇと、もしかして私がケルベロスを倒してしまったとか?」

「そうですよ、覚えていないのでしょうか? あれほどの火炎魔法は初めて見ました」


 初めての魔法だったしガムシャラだったからなぁ……。

 きっとまぐれ、もしくは初回限定サービスのようなもので一度だけは高火力なエネルギーを出せたのかもしれない。

 おそらく、私は魔法の発動で魔力を使い果たしてしまい倒れたのだろう。


「あなたが私を助けてくれたのですか?」

「はは、何度も言いますが助けられたのは私たちです。もっとも、倒れてしまったあなたを王宮へ運んだのは我々騎士団でありますが」

「王宮……!? ということは、ここは王都ですか?」

「そうですよ」


 なんというラッキーな展開!?

 命が助かった上に、いつのまにか目標だった王都へ運んでいただけたらしい。

 しっかりと周囲を見てみると、ふかふかの正体は高級そうなベッド。

 今まで奴隷任務のあとは外で寝る日々だったから、ベッドがこんなにもふかふかしているなんて知らなかった。

 それに、剣で斬られてボロボロだった服ではなく、綺麗な服に変化していた。


「ありがとうございます。申し遅れましたが私はソフィアです」

「騎士団のアーヴァインと申します。あ、まだゆっくりと休まれたほうが良いでしょう。魔力の枯渇で倒れたようですからね。十日ほどはゆっくりされたほうが良いかと」

「私、いったいどれくらい気を失っていましたか?」


 本の知識しかないが、魔力の枯渇だとしたら十日以上は目眩や吐き気、頭痛を伴い、立ち上がることさえ大変らしい。

 だが、私の身体にそのような症状は一切ない。


 ケルベロスに魔法をかけた場所は、王都が全く見えないようなところで、目を覚ました今はベッドの上。

 既に十日以上は経過しているのではないだろうか。


「三日ですね。ここの客間の使用許可は降りていますので、ゆっくり休んでください」

「三日ですか!?」

「そんなに驚かなくとも……。それともなにか大事な予定でも?」

「い……、いえ。そうではないのですが……」


 これは気まずいことになった。

 私が気を失った原因は魔力の枯渇ではないからだ。

 きっと、おっかないモンスターを目の当たりにして失神でもしてしまったのだろう。

 しかも三日間も意識を失った上に騎士団から失神の介護までしてしていただいて……。


「申し訳ありません……」

「なぜ謝るのです?」

「私の倒れた原因が恐怖による失神だからです。それなのに迷惑をかけてしまって……」

「ソフィアさんが倒れてしまった直後に同行していた医師にも診てもらいましたが、魔力の枯渇だと言っていましたよ」

「へ……? でも私、もう元気ですよ。ほら」


 ベッドから起き上がり、歩いてみた。

 私の身体になんら異常はなかった。


「どちらにせよ、謝る必要などありませんよ。ソフィアさんは我々と王女を危機から救ってくださったのです。国王陛下も大変喜ばれておりました」


 そう言われても実感がない。

 本当に私が魔法で倒したのかどうかもわからないし。

 そもそも、三ツ首のケルベロス相手に火炎魔法一発で倒せるとも思えない。

 キッカケは私の魔法かもしれないけれど、私を助けるために騎士団が戦ってくれたのだろう。


 王女の護衛と言っていたし、戦えない理由もあったはず。

 だが、私が殺されそうになってしまったから戦うしかなかったのだろう。


 助けられたのは私のほうだ。

 そう思っていたのだが……。


「おやおや、娘を助けてくれた恩人はもう目覚めたのかね?」

「陛下! いけませんよ、無闇に歩いては!」

「心配いらぬ。恩人に対して顔を出すことくらいできなければ王として失格だ」

「へ!?」


 展開が急すぎて、変な声が出てしまった。


 私のような人間が国王陛下と対面してしまうなんて末恐ろしい。

 陛下の隣にいるお方は見覚えがある。


「旅のお方、危ないところを助けていただきありがとうございました」


 少女はニコリと微笑んでから礼儀正しくお辞儀をしてきた。

 いえいえ、私は倒すためのきっかけを作っただけだから、そんなにお礼を言われるようなことはしていませんよ?

 などと無礼になりそうなことは言えなかった。


「それにしてもものすごい魔法でしたね。私も炎属性は使えるのですが、桁が違いました。あれほど威力がある魔法を見たのは初めてです」

「はは……私の魔法は、まぐれですよ。無我夢中でしたから」

「精神状態が不安定だったり窮地に追い込まれていると、魔法は上手く発動できませんよ」


「ところで、そなたはどこかへ向かう途中だったのかね?」

「王都を目指してました。まさかこのような形で辿り着けるとは思いませんでしたが」

「ふむ……。聞いたところによれば、なにも持たずのうえ、服は鋭い刃物のようなもので斬られた跡があったそうだが……」

「そ……それは……」


 陛下の言葉を聞き、私の目線がウヨウヨしてしまった。

 子爵家で奴隷生活をしていたことがバレてしまうのはマズいんじゃないかと思ったからである。

 貴族は王族とも繋がりがあるだろう。

 義父様はよく「国王が~」などと口にしていて慕っている印象を受けていた。

 もしも陛下が義父様と仲良しだった場合、私の身が危険だ。


 そんな心配をしていたのだが、陛下はそれ以上聞いてこなかった。


「王都を目指していると言っておったな。娘や護衛と騎士団たちを救ってくれた礼の一部として、そなたの目的が終えるまで宿代わりとしてこの部屋を自由に使ってもらってかまわぬ」

「良いのですか!?」

「それ以上のことをそなたはしてくれた。外で野宿は危険だろう? それから王都にいる間は女の護衛もつけておくとしよう」

「ありがとうございます!!」


 生まれて初めて喜びを感じているのかもしれない。

 騎士団のアーヴァイン様や陛下から、人として扱ってくれることが、優しくしてくださるのがとても嬉しかった。


「ではアーヴァイン団長よ、彼女に護衛の配属を」

「承知いたしました!」


 アーヴァイン様って騎士団長だったのか。

 騎士団としか言われなかったからわからなかった。

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