第63話 ゲームのネーミング

 ボーリアル宰相のように、このバラード王国にも宰相がいる。

 実に頭の痛いことにあのバーミヤン公爵家の当主である。そう、この生誕祭を断ったその人であり、アリーシャとの婚約破棄を宣言したアレンの父親である。

 その名もゲス・バーミヤンである。


 ザマス・カーサイトもそうだが、このゲス・バーミヤンのネーミングというのはいったい何なのか、非常に気になるところである。

 しかもこのゲスの父親がダイゲス、ザマスの父親がゴワスというのだからふざけているとしか言いようがない。偶然の一致でも、名前を受け継ぐというものでもあるまい。


 ゲスの前はダイゲスが宰相だった。公爵家でも私とザマスの父親はそれぞれすでに他界しているが、ダイゲス・バーミヤンはまだ存命で70歳くらいという。


 ついでにいうと、現国王の父も母も他界している。

 現国王はまだ40歳にもなっていない。なお、見た目は20代と言ってもいい。


 この世界の平均寿命というのがどの程度なのかという統計はないが、そこまで低くないという印象である。実際、領民の中には70歳どころか80歳、90歳を超えた者もいる。


 これまでの、少なくとも私がこちらに来るまでのこの世界の食生活と寿命との関係のことを考えると、それほど高いとは言えない。ただ、ここにはポーションのような回復薬や薬草やこの世界独特の動植物とも関係があるのかもしれない。

 一概にはいえないが、最低でも平均寿命は60歳は確実に超えているはずである。


 この問題については気になっていたことの一つというか、明らかに老齢の人間が身近なところにいないのは不審だった。


 元々そういう設定でゲームが始まったのかもしれないが、それでもこの世界では何らかの説明が少しくらいあってもいいはずだが、そういうのもほとんど聞かない。

 まあ、たとえば泡立て器もシャモジも本当に焼き跡を付けたり、地球とは本来の使い方が異なっているものが多かったし、今ではヒロインの登場とともにそれらの道具の用途を変えるだけで、あとは活躍するまでの時間が短縮される目的があったのではないかという予想も立っている。そういう道具もこの世界には既にあるというのは事実である。石けんなり醤油なりを作りたいのにそのための材料や道具がなければ時間がかかる。だから、すでに用意されているのである。


 ただ、物についてはその説明もできるが、何人かの人々に起きていたことについてはどうなのだろうか。

 たとえば、前国王と后も王宮内で、しかも相次いで亡くなったという話であり、それも20年以上前である。だから情報はあまりないのだが、それを発見したのはどうやら当時の宰相ダイゲス・バーミヤンだという気になる噂がある。

 先代たち、私の両親も事故死だというが、これについても実は思うところはある。


 そして、どこまで関連しているかはわからないが、現宰相のゲス・バーミヤンはソーランド公爵領が行おうとしている人体解剖や医学研究に当初反対をしていた。

 一応、どういうことをするのかという概略を、たとえば不審死があった場合に死後何時間だとかどのような理由で亡くなったのか、そういうのも明らかになる、そういうメリットもあるのだとして説明を行った。


 最初はゲスが圧力をかけてきたのだが、それを王は毅然とした態度で退けたという経緯がある。私がこちらに来てから2年目の最初あたりだったと思う。

 教会との交渉がなかなか進まずに難航していたのは全てはこのゲスのゲスのせいである。


 ただ、これも意外なことなのだが王だけではなく、公爵家のザマス・カーサイトも王に賛同していた。そういう事情もあってゲス・バーミヤンの反対意見は通らなかったのである。王だけだったらどうなっていただろうか。


 どうも現王はそういう事情から若くして王になったので苦労をしたのではないかと思うが、ゲス狸のようなバーミヤン家の宰相にどこまで強く言えたのか、そこははっきりとしない。


 ちょっとミステリー小説が好きだった田中哲朗には引っかかる情報だ。


 まあ、ゲームの中では物語として若者ばかりを登場させていたんだろうから年寄りが少ない、という単純な可能性も考えてもいいかもしれない。

 恋や愛がテーマとなるゲームに私のようなオッサンや老人たちのものなどないのだろう。私もそんなゲームをしてみたいとは思わない。オッサンや老人が恋にバトルに青春なんてしたら心臓発作を起こしてしまうだろう。



 いずれにせよ、バカラはこのゲス・バーミヤンはもとより、ダイゲス・バーミヤンに対しても良い印象は抱いていないし、先代もそういう人だったようだ。犬猿の仲、不倶戴天とも言えるが、同じ公爵家でもカーサイト公爵家との関係の方がまだ健全である。


 まあしかし、ザマスもゲスも名前の響きが強すぎて、もうそれにしか見えなくなってしまう。それをいうなら、バカラもそうだな。ザマスとゲスに比べたらまともだ。

 どうせなら婚約破棄したアレンはコゲスとかクソゲスとかにでも名付ければよかったのに、と思う。



 名前といえば、たとえばアベル王子のアベルは旧約聖書にも出てくる人間だ。その母親がマリアで、姉がカトリーナ。

 カトリーナに似ている、キャサリン、カタリナ、カトリーヌ、エカテリーナという名前の領民もいた。


 何かを象徴しているようで、かたやいろんな国の名前をごちゃ混ぜにしているのだが、そういうものなのだろうか。

 あまり気にすると川上さんから「まあゲームですからね」とでも言われそうだ。


 ただ、これまでバカラとして生活した限りでは、本当にこのゲームの設定は単純なものなのかどうか、ゲスやザマスというネーミングはさておき、「ゲームだから」で説明ができるのかは少し再考しなおしている。

 娘や川上さんを信じるというわけではないが、あの二人はこのゲームの世界のどこに魅力があると感じたのか、それは気になっている。

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