第57話 カトリーナの生誕祭〔2〕

 この国と距離があり、言語の異なる国からも出席してもらったが、もちろん通訳も多く用意している。

 カレン先生はこの国が採用している公用語とは別に、実に3つの言語を巧みに操る先生である。しかも、その3つは言語の起源や体系からして、共通の祖語ではあるが、それぞれ独自の流れがある。地球の言語でいえば、英語とイタリア語とチェコ語くらい違う。

 これがどれほどすごいことか、田中哲朗よりもバカラの記憶に照らすと非常によくわかる。


 アリーシャとアベル王子、そしてカレン先生は3人で動いていたが、カレン先生が先導してコミュニケーションをとっていたようで、さらにアリーシャもたどたどしいながらもその国の言葉を話して挨拶や軽い会話ができたようだ。アベル王子も話している。


 たどたどしいといっても、「あ」とか「えー」とか、慌てふためくような態度はなく、複雑な議論ができるほどではないという意味であり、日常的な会話はほぼ問題なく、しかも耳が良いのか、発音もすんなりと上達していった。これは本当に相当その言語に力を入れている証拠だった。


 その姿はこの国の多くの人間に観察されていた。


 婚約破棄をされた公爵令嬢のアリーシャが注目されないはずはない。だったら、そのアリーシャが他の貴族とは違う姿を見せればよい、そう思っていた。とはいえ、私がそう促すよりも先にアリーシャ自身がそう考えていたようである。

 その国の人たちはアリーシャが自国の言語を操っていたことを喜んでいたようだ。もちろん、社交辞令が多分にある。それでも、印象付けることはできたように思う。


 疲れた招待客に対しては、別室、休憩部屋も用意している。

 くどくないアロマをき、ドジャース商会が取り扱っている商品の見本なども用意していた。今日出した酒類やガラス細工なども置いている。

 トイレには芳香剤、美しい花々を置いてある。


 多くの貴族の子弟、それはアリーシャやアベル王子よりも小さい子たちだったが、その口に何かを入れるとぱっと明るい表情になり、しまったと元に戻るという不思議な表情の変化があった。


 一人、青色の髪の毛の男の子がいた。

 そして、赤色の髪の毛の女の子と男の子がいた。


 二人の男の子はアリーシャと同い年に見えるが、青色はカーサイト公爵家で、赤色はマース侯爵家の象徴である。

 すなわち、青色の子はシーサス・カーサイト、赤色の子は女の子がファラ・マース、男の子がベルハルト・マースである。


 マース侯爵家は代々騎士の家系であり、王宮の騎士団長を務めているのもマース家当主である。


 その長男のベルハルト・マースもその道に進むために家で日々鍛えられていると評判であり、赤色の髪が示しているようにこのマース家は火の精霊と契約している。


 そのベルハルトの姉が隣にいる女の子でファラ・マース。

 彼女はカーティスと同い年であり、騎士コースでその武勇が知られている。彼女も火の精霊と契約している。


 通常、マース侯爵家のように精霊と契約していながら騎士の道を選ぶ場合は、バラード学園の騎士コースを選ぶ。


 騎士コースは実習ばかりだが、魔法が使える場合には大半を魔法使いコースの講義へと振り替える。こうして、魔法も使える騎士の完成というわけである。

 だから、相手が魔法を使っているからといって接近戦を挑んでも殴り飛ばされるということが起きる。


 おそらく、アリーシャと同い年のベルハルトは騎士コースに入学すると思われる。

 なお、マース侯爵家は第一王子派でも第二王子派でもなく、中立派である。


 カーサイト公爵家はポーション作りの家で、水の精霊との契約をしているが、そのカラーが青色ということなのだろう。

 マース侯爵家が火の精霊、赤い髪というのと関係があるとみている。


 それを見ながらはっと気づいたのだが、鼻毛もすね毛も脇毛も青かったり赤かったりするのだろうか。

 カーサイト公爵家もマース侯爵家も眉毛の色は髪の毛と同じ青だったり赤だったりする。それ以外はどうなっているのか。もしかして、生えていないということもありうるのか。


 カーティスは紫色の髪だが、そういえば鼻毛までは見ていないというか、黒に近いのではっきり紫とはわからないような気がする。

 今度内々に調べてみよう。

 もしカーティス本人にでも直接訊いてしまったら、こちらを汚物でも見るように蔑視されそうな強い予感がするので、親としての威厳は保ちたいからやめておく。


 招待客を選ぶ時に、アリーシャと同い年の子で、しかも髪の毛の色に特徴がある子をピックアップしてもらったら、見つかったのがシーサスとベルハルトの二人だった。

 

 カラーというものがゲームにはあるようだし、おそらく髪の毛や瞳の色、容姿、家格からして二人は貴公子たちの可能性があり、その貴公子たちだったら貴公子なんだから性格にねじれもないだろうと思う。

 いや、まてよ。性格に問題がある貴公子たちだったか。


 とにかく、どうせ会うのならこういう時の方がいいかと思い、二人を招待している。もちろん、当主たちも一緒である。

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