第56話 カトリーナの生誕祭〔1〕
生誕祭は19時開始で、だいたい21時くらいにお開きになる。前回もそうだったらしい。
しかし、勝負はその時間帯だけではない。その前から始まっていたのだ。
前日、そして当日にはメディア広報部隊を使って、この日にカトリーナ王女の生誕祭があることを触れ回った。一部貴族のパーティーのようなものなのだから、生誕祭が王都の民に周知徹底されているとは言いがたい。
その際、マリア王妃ならびにカトリーナ王女から国民に感謝を込めて渡すものがあると言って、キャンディーやクッキーなどを小さな袋に入れて、それを配りまくった。
王都だけでも実に300万人はいる。横浜市並である。
もちろん、その全員に配れるわけではないが、できる限り配った。
キャンディーは日持ちするし、クッキーも材料の精選や調理後に日持ちするよう工夫をしている。
数万個、数千枚を用意したのだから、料理人たちには本当に頑張ってもらった。さらにそれらを袋に詰める者たちをも
それを前日の昼から当日の昼の間に配った。
ドジャース商会と取り引きややりとりのあるいくつかの店舗などにも事前にお願いをして、客たちにサービスとして配布するように協力を得ていた。
王都にはほとんどこのようなものは出回っていない。一部の富裕層くらいである。
だから、多くの国民は初めて食べる味に感動していたという話を後日聞いた。甘味という武器はこういう時に力を発揮する。
一部の者たちは感謝の言葉を伝えたいのか、本邸近くまでやってきていたが、それらは多くの招待客の目に映っただろう。
さて、招待客は本邸に入ると、給仕たちが飲み物と軽くつまめるものを用意する。リクエストには応え、どのような飲み物や食べ物なのかも説明する。
事前の説明会では一度、すべての給仕には口にしてもらっていた。だからこそ、言葉もリアルである。
飲み合わせ、食い合わせというものもあるので、お薦めの組み合わせなどの情報を提供する。
ただ、さすがに一度ですべてを覚えられるわけでもないので、だいたい飲み物に合うつまみ毎にグループ化して、いくつかのテーブルに分けている。だから、最悪「ここにあるものなら相性いいです」という逃げる手段もある。
生ジョッキを持ち歩くわけにもいかないので、小さなガラスの酒器であるが、色とりどりのものを用意した。
ガラス職人と研究者が共同して、色のついている珍しいガラスを発明した。すでに色つきの器はこの世界にあったが、この世界にはない幅広い色のものを用意した。
赤、青、紫、黄色と色とりどりで、綺麗な器である。そのグラスに冷酒やスパークリングワイン、果実酒やビールなどを入れる。アリーシャたちと同年代、または幼い子たちも招待客の中にいるので、そういう子たちが呑めるものも用意をしている。
つまみとは別にスイーツ類は多く用意している。
生クリーム入りのプリンにケーキ類はもとより、チョコレートもふんだんに使う。ここでの配慮としてはそれぞれすべて一口サイズにしている。
大人向けのものとして、生ハムや燻製チーズにクラッカー、ジャンキーなフライドポテト、イカのからすみ、もろみ味噌に野菜スティックなど、数多く用意した。
みなが舌鼓を打って会場が暖まってきたら、徐々に会場の灯りが薄くなり、アナウンスを入れる。スポットライトとともに王女が王妃とともに姿を現した。
もちろん、マイクもスピーカーもスポットライトも研究員たちの意地と飽くなき探究心と努力と多額の予算の賜物である。
ここで会場を真っ暗にして真ん中に豪華なバースデーケーキを出して、ロウソクの火をカトリーナが風の魔法でふっと消すという演出も考えたのだが、まあそれは止めておくことにした。
王妃には特別な化粧品を用意していた。
改善されたとはいえ、まだ少し顔色が悪かったので、化粧品を用いてそれが目立たないようにしていた。近くで見ても綺麗な肌だと感じただろう。そして遠くから見ても艶やかさは感じ取られただろう。
そこからはしばし歓談となる。
王女と王妃は前の席で多くの招待客からお祝いの言葉を受けていった。
「あの方は、まさか!」
「どうしてここに!?」
ざわっと会場がうなった瞬間が何度かあったが、とりわけどよめいたのは隣国のカラルド国の第一王子クラウド殿下がその姿を見せた時だった。
「カトリーナ王女殿下、我がカラルド国を代表いたしましてお祝いを申し上げます。この度はお招きありがとうございます……」
快活な雰囲気を見る者に感じさせる快い声である。
カラルド国の名のある貴族たちも連なっている。カラルド国以外の隣国からも小国ではあるが王族や高位の貴族が出席していた。
これはドジャース商会のケビンを通じて長く交渉させたことの結果の一つだった。
それぞれの国の王族や貴族たちにはいろいろと便宜を図ってきた。
ここでついに王族だけには我がソーランド公爵家、ならびに王妃たちがドジャース商会に関わっていることを打ち明けたのだった。ちょうど、王妃の名を借りて私が出した招待状が行き渡った時期と同じ時期である。
これも一つの賭けだったが、そのことの政治的な意味をよく汲み取ってもらえたようで、こうして派遣してくれる国が多かったのだった。
もちろん、王族以外にも有力な貴族たちにも根回しをしておいたし、それなりのものを払っている。
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