第27話 学校を作ろう〔1〕

「やはり教育が必要か」


 バラード学園は学校であり、庶民も通える場合もあるが、ほんの一握りだけである。それ以外に庶民が通う学校はない。

 嘘だろう?と思ったが、本当になかった。

 しかもそのバラード学園も内部は腐敗しているような学園だ。まともな人間がどれほど育つのか、怪しい。


 貴族の場合はカーティスやアリーシャのように、学園に通う前にカレン先生のような知識人に全般的な事柄を教わるが、領民たちの中で学べる者は少ない。学ぶ者ではなく、学べる者が少ない。これは本人のやる気とか意思の問題ではなく、単純に機会の問題である。


 領内の人間は識字率は低いし、計算もまともにできないこともある。どうやら他の領地も同じようである。ボランティアのような形で誰かから教わるようである。


 もちろん、それで生きていける現実はある。だが、社会で生きるためにはある程度の読み書き能力がなければ、突如不当におとしめられる。

 たとえば、法令があるが、紙の契約書の効果は強い。

 だからなのか、詐欺被害も減ることもないし、泣き寝入りをする領民も多くいるようだ。


 読み書き算盤と言われた時代に育った田中哲朗の身からすれば、それはまともな領地運営ではない。教育の必要性を切実に感じる。

 だからといって、今さら働いている大人が学校に通うことなどはできない。

 可能性があるとすれば、やはり一番は子どもだろう。ただ、その子どもも労働力として小さい頃から働かされている。これは明治期の日本でもよく見られていたことだった。

 本来なら義務教育として領内の子どもたちに適切な教育を行いたいのだが、全ての子には難しいだろう。

 だが、やらないといけないことだ。早ければ早いほど長期的に見れば活きてくる。


 これは4月段階から考えていたことでもあって、読み書きと計算を中心に学ぶ小学校を領内にポイントを絞って5校作る。11歳以下であれば誰でも通っていいことにしたが、まあ6、7歳くらいからだろう。3歳児が来るとは思えない。

 一日中ではなく、午前か午後かの2、3時間程度にする。また、毎日通う子がいるとも限らないので、遅れを取り戻す補習の時間も作る。

 もちろん、明らかに5校は少ないので様子を見ながら増やしていく。おそらく、最終的にはその数十倍は建てることになるだろう。


 その上にいわば中学校を作り、さらに難しい内容を学ぶ。対象は概ね12歳から14歳。これも始めは5校程度だろう。

 年齢は一つの基準なので、飛び級なんてのもある。小学校の講師からの推薦があったらこちらに通えるようにしたい。

 さらに高校を作って、これは3校である。ここではより専門的なことや実際の仕事に直結する内容にする。


 以上の計画を立てた。中学校と高校は今年開校するのは難しいので、来年、再来年の話になる。

 まずは小学校の講師の確保と、その校舎を建てる必要があった。


 それと併行して、どのくらいの世帯が子どもを学校に通わせるかという調査も行った。作ったのに誰も来ないでは意味がない。逆に来すぎてもキャパシティーがオーバーして困る。


 案の定、想定よりも遙かに低かった。数十人だった。

 一体何をやっているのかがわからないという気持ちもあるだろうし、いまさらやっても何も変わらないという感情もあるだろう。


 そこで、「子どもを学校に通わせたら、税率を減らす」というお触れも出すと、だいぶ上がった。

 これでなんとか領内の11歳以下の1%の子どもが小学校に通うようになるはずだ。


 1%は少ないように見えるが、それでも100万人規模の領地なのである。

 だいたい14歳以下が1,5割~2割、、つまり15~20万人おり、その1%だけでも1500~2000人である。1%でもこうなのだから、そう考えると義務教育というのは本当に時代を変えたものだったのだろうと考えさせられる。

 いろいろと調整して1000人程度が5校の小学校に通うことになる。

 開校は10月からである。

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