第26話 バラード学園〔2〕
魔法使いコースは精霊と契約して魔法が使える人間が通う学科である。
バカラも昔はここに通って魔法の練習をしたようだ。
モグラと白蛇の大精霊たちは、実はかなり偉い方であり、本来ならば人々の前に姿を現さない。通常の精霊でもそうである。
だから、魔法が使える人間は本当に少ないようである。したがって、個人授業のような形態であり、手取り足取り教えてもらえるようだ。
それにしても精霊が美味いものに弱いとわかった以上、どうにかして契約をもぎとることができないものかと思う。
大精霊くらいとも言わずとも、モグ子とヘビ男だったら、たとえばクリスやカミラの二人と契約をする、そんなこともできないかどうか、思案中である。
王宮魔道士の道があるようだが、やはりここでも貴族の専売特許らしい。
きぞく貴族キゾクと、日本で育った私には度し難いが、この国の貴族の何が偉いのかさっぱりわからない。
他の領地の税率も調査したが、とてもじゃないがまともな感覚ではないと思った。酷いところではソーランド領の2倍以上である。
それなのに、有無をいわせずに好き勝手する。
絞るだけ絞り上げた庶民からの税で成り立っていることがどうして理解できないのか。税率を上げなければならないのは、お前たちがまともに仕事をしていないんじゃないのか。
平安時代の貴族だって超過勤務が常態化していたという。その合間に風雅を追究していったのだ。
たまたま貴族に生まれたのだから、自由に振る舞えばいいわけではない。
たまたま生まれたからこそ、たまたま庶民にならなかっただけである。違う世界線には庶民として生きている自己がありえたことなど、彼ら彼女らは決して想像もしないだろう。
「ノブレス・オブリージュ」という、高貴なる者の使命、義務、そのような言葉があるが、そこからは遠い場所に、この国の貴族たちは立っている、そう思う。
上から目線だと批判するむきもあるが、実際にそういう社会構造になっているのだから、上の者には果たすべき仕事とその責任があるのであり、今の社会を前提とするのなら批判はその仕事を果たさない貴族たちに向けられるべきであろう。
その義務と責任を放棄して、9歳の子が婚約破棄されたり、同じくらいの子が魔法が使えない、
庶民にもこの学科に通う者がいるが、少数だという。魔法を使える庶民を使えない貴族の子弟が嫌がらせをする現実もあるようだ。なんとも情けない話である。
最後の一般コースは、主に文官を目指す学科で一番数が多い。爵位のない家の人間でも、たとえば大商人の子弟などがコネクションを作るために通うらしい。一般人もいるが、相当優秀でないと入ることはできない。
カーティスはこの学科である。あの生意気な第一王子は契約しておらず、ざまあみろと言いたいが、この学科にいる。だから、カーティスも目を付けられているのだ。アリーシャに婚約破棄をしたアレンも同じだ。
すでにカレン先生からの指導を終えているカーティスにとっては、この学園の教育内容などほとんど
「カーティス、学科の変更をするが、いいか?」
魔法が使えるようになったのだ、カーティスを今から魔法使いコースに変えた方がいい。
バカラの記憶でも魔法の制御に失敗して大怪我をした人間がたくさんいた。危険な力だからこそ、それ専門の魔法使いに習う方がいい。魔法使いの講師はまだ学園に染まっていない、まともな人間が多いそうだ。
カーティスもそのつもりのようだったが、水くさいことになかなか言い出せないようだった。契約した日から、カーティスは憑き物でも落ちたかのように晴れやかな顔になっていった。言葉数も増えていった。カーティスの方から歩み寄ってくる、そんな気がした。
本当にこの子が報われて良かったと心の底から思う。
カーティスの意向を確認すると、すぐに学園に学科の変更を申し出た。
規定集にも「魔法が使えるものは優先的に学科を変えられる」とあった。
しかし、大変いまいましいことにこれも第一王子派の嫌がらせなのだろうか、すぐに受理されなかった。規定集を盾にしても検討中だと返事が送られてきた。
何人かの人間に
すると、すぐに受理された。
どうもきな臭い学園だ。よくこんな学園を舞台にした恋愛物語ができるものだと逆に感心してしまった。
カーティス、そしてアリーシャのためにも、この学園にも目を光らせなければならないな。
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