第14話 食文化の改善〔2〕

 もう一つ忘れてはいけないのは、醤油の発明があった。

 煮て良し、焼いて良し、けて良し、舐めて良し、この発明はさまざまな料理に応用が可能であるし、日本食を見ればたいていこの醤油は出てくる。日本食以外にも隠し味に使われていることも多い。

 ただ、醤油なら作り方はわかるが、準備が足りない。

 しかし、ヒロインが簡単に作ったということは菌があるはずである。これも絶対に見つけてやる。



 しかし、あれこれと述べてしまったが、それにしても食文化のガバガバ設定のせいで、この世界の人たちはみんな舌が完全に麻痺しているとしか思えない。


 開発者はいったい何を考えていたんだろうか。こんな悲惨な世界のどこがバラードだというのだろう。よくヒロインがやって来るまで耐えていたとむしろこの世界の人たちを私が代表して褒めたいくらいだ。


 アリーシャやオーランたちと話していても「美味おいしい」という発言は皆無である。美味しさのない世界というのか? 

 食べるという行為にそんなに意味を見出していないのかもしれない。

 しかし、その行為は単なる動きでもなく栄養補給でもなく、総じて文化的な営みである。食は生活にも関わる。人間の行動原理にすらなりうるものである。


 それなのに料理人はいるというのが摩訶まか不思議ふしぎなところだ。

 加えて、調理器具や器などはしっかりとしている。包丁の種類も多いし、フライパンも多い。

 しかし、泡立て器はいったい何料理に使っているのか一度オーランに訊いてみたいものだ。新しい武器だろうか。焼き跡を付けたりマッサージでもするつもりだろうか。

 シャモジまであるのは、もはや噴飯物ふんぱんものでギャグでしかないだろう。飛び道具だろうか。きっとよく飛んでいくだろう。それとも厨房で目の検査でもするつもりだろうか。



 いや、食だけじゃないな。この世界は生活全般がとてもふわっとしている。

 たとえば、歯ブラシもなければ耳かきも爪切りも鼻毛カッターもない。鼻毛は涙目になりながら指で根こそぎ抜くんだろうか、大きなハサミを鼻に入れてチョキチョキするんだろうか。耳には小指か木の枝でも入れてほじくるのだろうか。


「まあ、ゲームにそんな細かい設定は必要ないということか」


 若い子たちがやるゲームだ、妙に生々しい生活感が描かれていないことも考えられる。

 爪が伸びたとか、耳の穴をほじくるとか、ましてやトイレの描写なんてありはしないだろう。まあ、辛うじてトイレはあったのは開発者に残されたわずかな良識だったのだろう。


 ヒロインが排泄はいせつするシーンなど、ぼやかしても汚いイメージを想起させるだけだ。

 きっと流れるのは尿でもよだれでも鼻水でもなく、懸命に打ち込んだ青春にきらめく汗であり、好きな人に会いたいと疾走して伝う心の汗であり、みんなアイドルみたいにトイレに行く必要はない妖精さんなのだろう。


 はぁと長いため息をついてしまうが、これらをすべて逆手に取って、歯ブラシや耳かきなどを作ればいい、そう思うようにした。今は不自由なくとも、「日本にいた時にはこんなのがあったな」と思い出すものもいくつかあるだろう。自分が不便だと思ったものを作りだしていけばいい。

 ピンチはチャンスである。ただ、大ピンチは大ピンチでしかない。一刻も早く、こうした大ピンチから抜け出したいし、領民を救出したい。

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