第13話 食文化の改善〔1〕

 次は食文化の改善である。


「オーラン、早くに準備してもらって助かったぞ」

「いえいえ、旦那様」


 オーランはこの家に長く勤める料理人で、他にも何人かいる。

 オーランにはこの国の一般的な食事を貴族庶民を問わず再現してもらうことにした。また、わかる範囲で外国の食文化も教えてもらった。

 よその国から来た料理人もいるようだが、郷土料理なども作らせた。


 主食は何か、おかずは何か、人気のメニューは何か、飲み物、デザートに到るまで食卓に並ばせた。

 これには一日では無理で、数日かけて行った。脂肪が増えることを恐れ、どれも一口しか口に入れていない。一口が限界だったという方が正しい。


「これがパンだな。ふむ、堅いな。堅いパンも味わいがあるといえばあるが、限度があるな」

「はい、これが一般的なんですが……」

萎縮いしゅくしないでくれ、オーランを責めてるんじゃない」


 パンは硬い、スープも厳しい、香辛料や調味料もあまり使用されていない。

 このことはこれまでの食事の時にもある程度わかっていたことだった。デザートといったら果実の皮を取って一口サイズに切っただけだった。


 調理の加熱は焼く、炒めるか煮るかであり、たとえば油で揚げるという発想はない。

 だから唐揚げもフライドポテトもコロッケも天ぷらもない。

 パン粉をまぶすということもないからカツレツもないし、ミンチにすることもないからハンバーグも餃子もない。

 生魚も食さないようだから刺身もない。

 米もないから、寿司もないし、チャーハンもドリアもないし、カツ丼も天丼も親子丼もない。

 ないないないと続いて、あるのは味付けの塩と胡椒だけであり、あとは食材そのものの味に左右される。


 ヒロインはこの世界の食文化も刷新していったという。そりゃ私もヒロインだったら刷新したと思う。

 パンには酵母こうぼを、スープには出汁だしを、肉や魚には香辛料や調味料やハーブを、だった。

 チーズやバターなどの乳製品、生クリームやプリンなどのスイーツも開発したんだったな。

 どうやらこの国にすでにあるけど試されていないものがたくさんあるようだ。


 これも石けんと同じだろう。

 一ヒロインが食文化に広く精通しているとは思えない。

 したがって、食や味というものを密かに研究している者もいるはずだ。これもロータスに調査をさせる。もちろん、他国のものにも力の及ぶ範囲まで手を伸ばす。


 特にヒロインはカレー粉を生み出したことが注目されたようだ。

 娘に見せてもらったスマホの中に映し出された貴公子たちもあのヴィジュアルでカレーライスを優雅に食べていたということなんだろう。

 さすがに私にはどういう材料や分量で生み出したのかは知らない。しかし、味と香りの記憶はある。これを研究している者がいれば意地でも探し出す。


 ただ、カレーがあるならライスもあるということか? 

 まさかカレーパンということじゃないだろう。まあ、カレーパンも美味いからな。出来たてサクサクのカレーパンに適うものはなかなかないと個人的に思う。

 これも調査中である。

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