第6話 非力
ロータスの説明によれば、王家を支える3大貴族として公爵家がある。
バカラ、つまり私のソーランド家、アレンのバーミヤン家、もう一つのカーサイト家である。この下にはさらに侯爵、伯爵、子爵と続いている。
このソーランド家は公爵家としては3番目、つまり一番低いのである。アレンのバーミヤン家は2番目であり、家の格としては対等とはいえ、政治的発言力や経済力には差があるという。
普通、会社でも家でも序列を述べる際には
相手のバーミヤン公爵家からアリーシャとの話が持ちかけられたが、バカラは渋っていた。
しかし、当のアリーシャが強く望んだものらしく、折れる形でバカラが認めたという記憶が頭に残っている。
(アリーシャが一目惚れをした、という話だったかな)
アレンという子はアリーシャには王子様のように見えていたのだろうか。
「お父様、是非ともお受けくださいませ」と8歳の娘に言われて、バカラは認めた、その苦い記憶がある。なんともしっかりした子だと思う。
ただ、バカラの記憶にはアレンをあまり好ましい男と認識されていない。ロータスもそうだ。
アレンはどうやら他の令嬢にも手を出しており、一方のアリーシャに対しては冷淡な態度をとっているという。
バカラはロータスを通じてアレンの身辺調査をしていたようだが、今も続いている。
ひとしきり説明を聞き、自室で一人これまでのことをまとめていた。
「待てよ、アリーシャが婚約破棄をされるのは2回だったはず……。つまりこのアレンから婚約破棄をされるのか?」
1回目はまだ起きていない。
だが、娘の言っていたことが真実であれば、アレンからアリーシャが捨てられるはずだ。
確か、9歳が一度目だった。二度目は8年後の17歳。
その婚約破棄が影響してアリーシャの人生や人格が少しずつ狂っていき、ゲームの中ではヒロインを目立たせる道化として演じていく、娘の話ではそんな話だった。
その日、食事の時にアレンと一緒に参加するパーティーを嬉しそうに話すアリーシャの姿があった。
記憶にはもちろんあったが、初めて見るこの世界の自分の娘である。
バカラと亡き妻との間にできた、尊くて奇跡の結晶だ。
自分と違って、所作も綺麗で見苦しさを一つもこちらに感じさせない妖精のような子だ。
(こんな小さな子が非情にも目立つ場所で一方的に捨てられる?)
「あの……、お父様? 具合が、悪いのですか?」
アリーシャと息子のカーティスが私の方を驚くように見ている。
側にいたロータスがハンカチを私に差し出してきた。
ふと流れてきた涙があったらしい。
「いや、何でもない」
ハンカチで涙を拭うと、ますます涙がこみ上げてきて、私は自室に戻っていった。
一度目の婚約破棄を食い止める策はついに見つけられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます