3-5話
「何か?」
四条教授が目を細める。
「放射線だそうです……」
矢野准教授が荒い息のまま応じた。手にしていた1枚のメモを差し出す。周囲の学者たちがそれに視線を落とし、互いの顔を見合わせた。メモには【0.18マイクロシーベルト】と発掘現場ではおよそ聞きなれない数字が書かれていた。
「……作業員たちの体調不良の原因です。あの遺物は放射能に汚染されているそうです。そこから発する放射線で作業員たちが体調を崩したようです。今、保健所の担当者が来て、遺物の周囲を測定しています。暫定的ですが、それが測定値です」
「私は平気だが?」
四条教授が不服そうな表情を作った。
「私たちはあれの傍にずっといたわけではありませんから、……それで影響が小さいのだと思います。しかし、これからは……」
矢野准教授の声が曇った。
土木作業にも似た発掘作業は終わった。これからは研究者たちが詳細な調査作業に入る。もし、あの遺物が放射能に汚染されているのなら、自分たち研究者が放射線を浴びることになる。……吉本は考えた。
「何はともあれ、これからの調査方法について再検討を加える必要がありそうですな」
渡辺教授の声に、四条教授がうなずいた。
「私は天鳥船じゃないかと思うのですが……」
突然言ったのは木野川准教授だった。小鳥のような澄んだ声だった。
「天鳥船。……あの巨石のことですか?」
矢野准教授が頭を傾ける。
「天鳥船は、武烈天皇の時代より、はるか昔の話ですが……」
吉本は、念のために指摘した。
「時代はともかく、万が一あれが古代の船なら。……宇宙人が乗っていた宇宙船なら、放射能に汚染されていることも、理屈が通ると思うのですが……」
彼女自身、思いつきだったのだろう。その言葉に説得力はなかった。
「そういえば記紀に、崇神天皇の時代、
渡辺教授が思いついたように話した。磯城端離宮は三輪山の南西部、三輪山を御神体とする
「
木野川准教授の表情がパッと晴れた。
「大田田根子は宇宙船を土に埋めて放射線を遮断した。それが大物主の祟りを鎮めたということなら、記紀は事実を記載していたということになる……」
渡辺教授が声を躍らせ、遺物の先にそびえる三角形の三輪山に目をやった。そこには神が降りるといわれる三つの
「……日本書紀は大物主と大己貴を同じ神だと伝えている。一つの神の荒ぶる魂と、和みの魂……。古代人の思考は面白いね。……大田田根子が大己貴の指示で放射能被害から国民を守ったのだとしたら……。今の政治家も彼の行動に学ぶ必要があるな」
「渡辺教授まで
四条教授が鼻で笑った。
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