第2話 初見、そして、調査
「初めまして。僕はこの闇の国の頭領をしている、アールといいます。立ったままでは話もいでしょうから、良かったらお座りください」
アールがギンガたちに座るように勧めると、ギンガたちは顔を見合わせて、座った。そこへ、先程案内してくれた女性がお茶とお菓子を運んできた。女性は配り終わると、アールの横に座った。そして、アールが柔らかい口調で言った。
「とりあえず、自己紹介からしては如何でしょうか?」
アールの提案をギンガは了承して、お互いの自己紹介が始まった。まず、アールから自己紹介を始めた。
「先程もお話ししましたが、改めまして。僕はアールといってこの国の頭領をしています。横にいる女性は妻のライカ。そして、反対側に並んでいるのは手前から、レイン、ケント、ジンです」
アールは穏やかに言うと、お茶を一口飲んだ。ギンガは思っていた雰囲気と違ったせいか、戸惑っていたのだが、ギンガも自己紹介を始めた。
「私は光の国の頭領ギンガだ。この者たちは私の側近で右からシド、ガロー、クレムだ」
お互いの自己紹介が終わり、ギンガは本題を口にした。最近、闇の者が悪さをして困っていたのだが、どんどん悪さが酷くなり、盗みまで犯すようになっていった。そして、つい最近、とうとう人を殺すまでしてしまった・・・・・・と言うことを伝えた。それを聞いて、ジンが急に席を立って声を上げた。
「この国の人はそんなことしないよ!」
突然のジンの声にギンガたちは驚いた。アールはジンに落ち着くように伝えてジンを座らせた。アールはギンガの話を聞いても取り乱すことなく、静かな口調で疑問を聞いた。
「その光の国で起こっている事が闇の国の人たちだという証拠はあるのかな?」
ギンガは疑問を突き付けてきたアールに、服は灰色だったことや髪の色も黒髪だったことを伝え、これ以上の証拠が何処にあるというような表情をした。アールは困った顔をして、少し考えると「とりあえず」と言って話し出した。
「とりあえず五日間、日にちを貰えないでしょうか?こちらで調べてみます。今の段階では何とも言えませんからね。ご足労かと思いますが、五日後にまた来訪して頂いても宜しいでしょうか?それまでにはきちんとした報告ができるように全力を尽くします」
アールの言葉にギンガは了承した。
「五日後には良い報告が聞けるのを楽しみにしている」
ギンガがそう言うと、ギンガたちはその屋敷を後にした。ギンガたちが去るのを見届けた後、アールたちは早速調査に取り掛かった。
ギンガたちは帰り道、釈然としない状態で馬の速度をゆっくりと進めていた。誰も口を開かないので、重苦しい雰囲気だった。その雰囲気をシドが声を発して破った。
「・・・・・・闇の国の頭領と言うぐらいだから、どれだけの悪人面なのだろうと思っていましたが、あんなにも穏やかだと拍子抜けしてしまいますね。それに、あの場にいた闇の者たちは皆、頭領を呼び捨てにしていましたし、頭領に敬語も使っていませんでした。あの感じだと、下の者の教育は全くなされていませんでしたね」
確かにあの場にいた闇の者たちはそんな雰囲気だった。闇の国の頭領であるアールの雰囲気は穏やかでどこも悪いことをするような雰囲気が無かった。上の者、下の者、といった上下関係も無く、まるで一つの温かな家庭を見ているような感じだった。ギンガは気分が落ち着かないまま、自分の国に戻っていった。
かなり遅い時間になって屋敷に着いた。ギンガたちは、門番をしていた騎士に門を開けてもらい、馬を定位置の場所に繋げた。中に入ると、遅い時間にもかかわらず、カレンが出迎えてくれた。ギンガはシドたちに休むように伝えると、カレンと共に自室に戻っていった。
カレンは、疲れた体に良いからと疲労回復に良いハーブのお茶をギンガに差し出した。ギンガは受け取るとお茶を飲んだ。一口飲み、少し気分が落ち着いたのか、今日あった出来事を話した。カレンは「お疲れさまでした」と優しく笑顔で答えた。ギンガはお茶の効果もあって落ち着いてきたのか、早朝から動いていたので疲れもありウトウトとし始めた。カレンはその様子を見て、寝台にギンガを連れて行き、横になってもらった。しばらくして、ギンガは寝息を立て始めた。カレンはギンガが寝たのを見届けると、自分も寝る体制に入った。
こうして、長い一日が終わりを告げた・・・・・・。
第二章 調査(ちょうさ)
ギンガたちが去ってから、アールたちは早速調査に取り掛かった。アールとジン、レインとケントの二つに分けてそれぞれ聞き込みを開始した。ライカも単独で調べてみると言って、調査に積極的に参加してくれた。聞き込みを開始し、アールたちは闇の住人に光の国で起こっていることを話した。しかし、住人たちは「なぜそれが闇の国の住人の仕業になるのだ?」と言う返答が返ってくるだけだった。なぜなら闇の国では、光の国の住人は傲慢で、自分たちのことを闇の国に住んでいるというだけで馬鹿にしているという噂だからだ。しかし、噂は噂だからというので誰もたいして気にはしていなかった。だが、聞き込みをしていくと、ギンガたちが闇の国に来た時に声を掛けた住人に会った。その住人の話を聞くと、「光の国の人たちは噂通りの傲慢者であり、道を教えても何もお礼を言わない全くの礼儀知らずであった」と、言うことだった。アールはその話を聞いてため息を付いた。アールの方もレインの方もなかなか有力な情報は得られなかった。アールは「これでは光の国の住人の素行調査だな」と感じ、再度、今度は深く息を吐き出した。ライカの方も収穫はなく、みんなで話し合いをして、明日からは聞き込みのほかに広範囲に渡って、隠れることが出来そうな場所や盗んだものを隠せる場所を探してみようということになった。今日は明日に備えて休むことになり、それぞれ部屋に戻っていった。
次の日、アールたちは二手に分かれて調査を開始した。隠れることが出来そうな洞窟や、今は使われていない小屋など、思いつくところはしらみつぶしに調査したが何も手掛かりは見付からなかった。アールは頭を抱え「このままでは期限までに報告ができない」と、八方塞がりの状況に焦りを感じていた。そこへ、レインがぽつりと呟いた。
「これ以上、どう調べればいいか分からないよ・・・・・・。何かが根本的に間違っている感じがする・・・・・・」
確かに、全くと言っていいくらい収穫はない。有力な情報も一つもない。しかし、ギンガには「こちらで調べる」と言ってしまったので、今更後には引けない。日数もあまりない。これで、何も得られなくてギンガに「何も得ることができなかった」と、言うことになったらギンガは間違いなく激怒するだろう。アールたちがどうしたものかと頭を悩ませていると、単独で行動しているライカが戻ってきた。ライカは皆がいることを確認すると口を開いた。
「ちょっと、いいかしら?気になる話を聞いたのだけど・・・・・・」
ライカは話すべきかどうか迷っている様子だったので、アールが話してほしいと促すと、ライカはおもむろに話し始めた。
「この前に事故で亡くなったミットたちが住んでいた家のことなのだけど・・・・・・」
ミットたちはこの前、崖から足を滑らせ亡くなった住人たちだった。とても仲が良くて、どこに行くのも一緒に行動していた。亡くなってから、その家はずっと空き家になっているのだが、その家に僅かな明かりが灯っているのを見たことがあるということだった。でも、その灯りを見た住人が、その家には誰もいないはずだからおかしいな?と、思ったみたいだが、その時は見間違いかもしれないからと思って気にしていなかったようだ。しかし、最近は毎日のように明かりを見るものだから、どんどん不気味に感じている・・・・・・という話の内容だった。
アールはその話を聞いて頭をうねった。光の国で起きている事件とは関係なさそうだが、住人のいない家に誰かが勝手に使っているのなら、それはそれで放っていくわけにはいかない。アールはレイン、ケント、ジンに「今日はもう遅いから、明日皆で一緒に行ってみよう」と、提案した。レインたちは快く引き受け、明日にその家に向かうことになった。
次の日、アールたちはその家に向かった。ライカも「一緒に行くわ」と言って付いて来たので、全員でその家に向かった。家に着くと、その時は家に灯りは無かったのでアールたちは家のそばの茂みに身を潜めて隠れて待つことにした。しばらく隠れていると、足音が聞こえてきた。足音の感じでは一人ではなさそうだった。この近くに他の家は無いから、この家に向かっているのだろう。アールたちは息をひそめて、茂みから様子を伺っていると、影を捕えた。影は全部で三人分だった。そして、その影が姿を現した。三人ともフード付きのマントを頭から足先まで覆うように纏っていた。そして、ミットたちが住んでいた家の前に来ると、その内の一人が手慣れた手つきでドアの錠を開け、三人は中に入っていった。アールとレインが見付からないように窓の近くまで移動して中の様子をこっそりと伺った。三人はマントを脱いで着替えをしているところだった。着替え終わると、今日あったことだろうか、話し声が聞こえてきた。アールとレインが耳を澄ませていると、僅かだが話の内容が聞こえてきた。話の内容からすると、今日の盗みの収穫の話のようだった。アールはおそらくこの三人が光の国で起こっている出来事の犯人たちだろうと感じた。三人は話が終わると、またマントで体を覆って家を出ると、その場を去っていった。アールたちは三人の足音が完全に聞こえなくなってから、体を起き上がらせた。アールはライカたちにも先程のことを話し、ギンガたちが来たら、ここに直接案内しようという話をして、アールたちもその場を離れた。屋敷に戻る道のりでアールはあることに頭で考えを悩ませていた。このことをギンガには伝えるのだが、本当にそれをしていいのか・・・・・・。しかし、アールは「これが真実なのだ」と思い、伝えることに決めた。ライカはそんなアールの様子に気付いたが、あえて何も言わなかった。
その頃、光の国ではあれからも毎日のようにギンガの元にビッキーたちが被害の報告をしていた。ギンガたちが闇の国から戻ってきて、次の日の朝早くにビッキーたちが訪れて、どうなったかを聞いて来たので、「五日後にまた行くことになっている」と答えた。何か進展はあったかも聞かれたが、特に何もないことを伝えると、ビッキーたちは苦い表情をしたが、光の国の頭領に逆らえるわけでもなく、ビッキーたちは苦い表情のまま報告だけをすると、下がっていった。そんな状況のせいか、光の国ではある噂が広がっていた。噂の内容はギンガに対する不満だった。光の国の頭領でありながら何も解決できていないこと、なんとかすると口ばかりで解決する気が無いのではないのかと不満の声が溢れていた。噂の中には、これではこの国のただのお飾り頭領だという噂もあった。しかし、上下関係が厳しいこの国で、この話がギンガやカレン、側近たちの耳に入れば罰せられるかもしれないと思い、ギンガたちの耳には入らなうように注意しながら噂を流していた。そんなことになっているとは知らずに、今日もギンガはシドと共に謁見の間でビッキーたちの報告を受けていた。ギンガもシドもガローもクレムも早く五日後の朝が来ることをただただ祈っていた。たった五日なのにその日にちがとても長く感じるような感覚だった。ビッキーたちの報告が終わり、部屋から下がり、その日の大きな仕事は終った。そこへ、カレンが、「お茶にしませんか?」と、誘ってくれたのでギンガはその誘いに応じた。部屋に戻り、カレンがハーブのお茶を用意してくれた。ギンガはソファーに腰掛け、お茶を飲んだ。すると、さっきまで強張っていた表情が和らいできた。
「・・・・・・カレンの淹れるこのお茶はとても気持ちが和むね。このお茶を飲むと気持ちが癒されるよ。こんなおいしいお茶をどこで知ったのだか・・・・・・」
カレンは「内緒です」と言って優しく微笑んだ。ギンガは「・・・・・・やはり秘密か」と言うと、明日のことを話し始めた。
「明日は約束の日だ。私は明日また闇の国へ行き、何か分かったかを確認してくる。場合によっては犯人たちを連れて帰れるだろう。犯人たちにはしかるべき罰を受けてもらい、アール殿にはこれを機に闇の国の制度を厳しくするように伝えるつもりだ・・・・・・」
ギンガは力強く言った。その言葉にカレンは何も言わずに頭をギンガの肩に乗せた。ギンガはカレンを優しく抱き締めると、優しく言葉を紡いだ。
「大丈夫だよ。悪い奴らは捕まえて、光の国にまた穏やかな日々が戻るようにしてくるよ。だから、カレンはまたお茶を用意して待っていてくれ。帰ったら一番にこのお茶が飲みたくなるだろうからね」
ギンガの言葉にカレンは答える代わりに頷いた。カレンのどこか辛そうとも悲しそうとも見える表情にギンガは「不安なのだろう」と思い、更に強く抱き締めた。
ギンガやシドたち、そして、光の国の住人たちの想いが交差する中、ギンガたちが待ちに待った約束の日の朝が来た・・・・・・。
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