光と闇のラプソディー

華ノ月

第1話 初見 1

 ~プロローグ~


 これは、一つの大きな島が光の国と闇の国に分かれていた頃のお話。光の国は光の国で頭領を立てて、闇の国は闇の国で頭領を立てて、それぞれの国で暮らしていた。光の国の人々は皆、髪の色は赤色かオレンジ色で、服装で分かるように、頭領は赤を基調とした服を纏っており、他の人々はオレンジ色を基調とした服を纏っていた。そして、闇の国の人々は皆、髪の色は黒色か灰色で、服装は月色や灰色を基調とした服を纏っていた。光の国と闇の国に交流は無く、基本はお互いの国を干渉しないという暗黙の了解があった。そのせいか、互いの国を想像だけで言うことは沢山あった。しかし、暗黙の了解があるので、誰もその真実を確かめようとする者はいなかった。


 しかし、想像だけの言葉があんなことになるとは誰も予想していなかった・・・・・・。



第一章 初見(しょけん)

 ここは光の国。いつも空は晴れ渡り光が指している。風はいつもと変わらずそよそよと吹き情景は平和そのものだった。しかし、その平和な情景に最近は影が差していた。

 光の国の頭領であるギンガは側近であるシドと共に『謁見の間』で、騎士団長であるビッキーと騎士長のオメガとラックスから報告を受けていた。最近、闇の国の者が光の国に侵入しては悪さを繰り返しているのだ。その悪さも、徐々に酷くなっているらしく、ギンガは毎日のように頭を抱えていた。目撃者の話によると、犯人たちは三人組らしく、顔はお面のようなものを被っているが、髪は黒色で服は灰色だという。その情報から、闇の者であることは確定しているのだが、お互いの国を干渉しないという暗黙の了解がある。ギンガは頭を抱えて「どうしたものか」と、ここのところ毎日悩んでいた。捕えようとしたこともあるが、すばしっこくて捕えられなかったという。ギンガは「何か対策を考える」と伝えてビッキーたちを下がらせた。頭が痛くなるような報告がここのところ連日続いているため、ギンガは疲れ果てていた。


「・・・・・・参ったな」

 

 天井に掌を翳しながら、ギンガはぽつりと呟いた。


 「闇の者が悪さをする頻度もどんどん増えている。最初は悪戯程度のことがどんどん酷くなり盗みまで犯している。全く・・・・・・、言い伝えで闇の者は根暗で陰湿で悪事を働くと伝えられているが、闇の者はこんなことをして心が痛まないのか?こんな悪さばかりしていて、悪いことをしているという認識はあるのか?何か確実な解決策を見つけなければ皆の不安を煽るだけだ。何か良い案はないものだろうか・・・・・・?」

 

 ギンガは考えを巡らせてみたが、やはり良い案は思い付かなかった。ため息を漏らしたり、掌を額に当てたりして悩んでいた。その様子を見て、シドが口を開いた。


 「ギンガ様、気分転換にカレン妃を誘って散歩に行かれはどうでしょうか?お気持ちが変われば、また違う考えが思い浮かぶかもしれません。いかがでしょうか?」

 

 シドの提案にギンガは「そうだな・・・」と答え、カレンを誘って散歩に出かけることにした。


***


 外に散歩に出かけていると、ギンガとカレンを見た人たちは皆、深々と頭を下げていた。それは、光の国では当たり前の光景だった。ギンガは光の国では一番の権力者であるし、カレンはその妻なのだから、上下関係が根強いこの国では上の言う言葉は絶対だった。ギンガとカレンが散歩をしていると一人の男が声を掛けてきた。先程、屋敷に報告に来ていた騎士団長のビッキーだった。


「これはご機嫌麗しく、ギンガ様にカレン様。仲良くお散歩ですか?」


「これは、ビッキー殿。先程は報告の方、ご苦労だった。なるべく早めに何か解決策を考えるよ。おや・・・・・・?」

 

 ギンガはビッキーの後ろにいる人影に気づき目を向けた。ビッキーがそれに気づき答えた。


「これは私の息子でワットと言います。さあ、ワット、挨拶をしなさい」

 

 そう促されて、ビッキーの息子であるワットと呼ばれた少年が深々と頭を下げると、元気のいい声で語った。


「ギンガ様、お会いできて光栄です。お初にお目にかかります。ワットと申します。僕は今、聖騎士団学園で騎士になるための勉強と訓練を日々行っております。ゆくゆくは、父のような騎士のなり、この国を守るのが僕の目標です!」

 

 ワットはそう言うと、再度頭を深々と下げた。ギンガはワットの言葉に感心し、言葉を掛けた。


「ビッキー殿には、こんなすばらしいご子息がいたのだね。とても良い息子ではないか。立派な騎士になるであろう。将来が楽しみだ」


 ビッキーは「ありがとうございます」と、嬉しそうに答え、深々と頭を下げた。そして、ビッキーとワットはその場から去っていった。カレンが「あの子・・・・・・」と呟いた。ギンガはカレンが何を言いたいのかを汲み取り、言葉を紡いだ。


「立派な息子だったね。あの年できちんと自分の考えを持っている。余程、父親の教育が良いのだろう。将来、立派な騎士になってくれると嬉しいね」


 ギンガは嬉しそうに言い、カレンは「そうですね」と言った。


***


 夕刻になり、ギンガとカレンが屋敷の戻ると門の前で門番をしているガローとクレムにビッキーがオメガにラックスと共に必死の様子で何かを叫んでいた。


「至急、ギンガ様に報告したい!時間外なのは分かっています!ですが、緊急を要するのです!お願いいたします!ギンガ様にお目通りをお願いします!!」


 三人の様子からはただ事じゃない雰囲気が流れていた。ギンガはその様子から声を発した。


「何があった!?」


 ビッキーたちは突然背後から声が聞こえたことに驚き、振り向くとギンガがそこにいたことに唖然とした。だが、すぐに我に返り、ビッキーが代表で話し出した。


「じ・・・・・・実は大変なことが起こりまして、例の三人組が聖騎士団学園の教育を担当しているロンガル先生を殺害したのです!目撃者の話によれば、ロンガル先生はいつもの場所で釣りをしていたそうです。そこへ、例の三人組がロンガル先生の背後から現れて突き落としたということです。救助したときはもう息をしていませんでした」


 ギンガは話を聞いて唖然とし、それから、徐々に怒りが込み上げてきた。ギンガはビッキーたちに至急手を打つことを伝えると、三人はその場から去っていった。そして、ギンガはガローとクレム、そこへシドも加わり、あることを伝えた。


「奴らはついに殺人までことを起こした。これ以上、このまま野放しはできない。私は闇の国へ行き、闇の頭領に会ってくる。皆には私と共に付いて来て欲しい」


 ギンガがそう伝えると、シドたちは承諾した。屋敷にはカレンが残るので、留守の間は屋敷にいる騎士に守りをしてもらうことになった。そしてギンガは声を上げて言った。


「明日の早朝に出発する!」


 ギンガがそう言い、シドたちに、明日に備えてゆっくりと休むように伝え、ギンガもカレンと共に自室に戻っていった。

 部屋に入ると、ギンガは不安そうにしているカレンを安心させるため、言葉を紡いだ。


「悪い奴らは必ず、捕まえてくるよ。皆を安心させるためにね・・・・・・」


 ギンガはそう言うと、カレンを優しく抱きしめた。カレンは何も言わず、ただ抱き締め返した。そして、明日に備えて早めに就寝することにした。


***


 朝になり、ギンガとシド、ガロー、クレムはそれぞれの馬に荷物を括り付けた。心配そうにカレンが見ていたので、ギンガはカレンに近寄り、優しく抱きしめた。


「大丈夫だよ。悪い奴らには必ず罪を償ってもらうから・・・・・・。帰ってきたらいつものお茶が飲みたくなるだろうから、準備して待っていて欲しい」


 そう言って、カレンの額に軽く口づけをした。ギンガは「心配ないよ」と言い、カレンを安心させた。そして、ギンガは馬に跨ると、シドたちも馬に跨った。騎士が門を開けると、ギンガたちは颯爽と飛び出した。姿はあっという間に遠ざかり、砂煙が辺り一面を舞い上がらせた。カレンは無事に戻ることを祈りながら、屋敷に戻っていった。


 ギンガたちは時折、休憩を挟みながら闇の国に向かっていた。早朝に出発したので、光の国の人々に会うことは殆どないまま、やがて、光の国と闇の国の狭間の森にたどり着いた。


「ここからが闇の国だな・・・・・・」


 ギンガたちは馬の速度を緩めて、ゆっくりと進んだ。そして、闇の国の領域に入ると、辺りは一気に薄暗くなった。ギンガはその薄暗さにぽつりと呟いた。


「・・・・・・こう暗いと、気分まで暗くなりそうだな・・・・・・」


 かなり小さい声だったのでシドたちの耳には聞こえなかったらしく、その声に返答はなかった。やがて、闇の森を抜けると、ちらほらと家が建っているのが見えてきた。馬に乗ったまま、闇の国を進んでいると、闇の者を見つけ、ギンガは声を掛けた。


「おい、そこの闇の者」


 声を掛けられた闇の住人は突然の声掛けに驚き、姿を見て光の国の住人だと分かったみたいだが、ギンガの言葉に圧力を感じたのか、体を強張らせた。ギンガはそんな様子を気に留めず、言葉を発した。


「この闇の国の頭領の屋敷は何処だ?」


 声を掛けられた闇の住人は体を強張らせたまま、右手で左の方向に指を差し、声を震わせながら説明した。


「こ・・・・・・この道を、まっすぐ行くと小高い丘があります・・・・・・。そこの・・・・・・その丘の上に頭領の家があります・・・・・・」


 ギンガたちはそれだけを聞くと、颯爽とその場を立ち去り、小高い丘を目指して馬を走らせた。やがて、丘が見えてきたので、馬の速度を緩めて登っていくと、一軒の屋敷が見えた。屋敷とはいえ、そんなに大きくはなく、どちらかと言えば少し大きめの家と言った方がしっくりくるような、そんな感じの屋敷だった。ギンガたちは近くの木に馬を繋ぎとめて、屋敷に向かった。


 門の前に着いたが、門番は居なかった。ギンガたちはこの家が闇の国の頭領の家で本当にあっているのかが不安になっていたが、道は間違っていないはずだし、この丘の上に他の家はない。気を取り直して、ギンガは備え付けてある錠を鳴らした。錠の音が鳴り響き、しばらくすると、扉が開いて女性が顔を出した。髪の手入れをきちんと行っているのか、綺麗な銀髪にも見える長い灰色の髪を頭の上の方で一つに結んで月色のリボンを飾りで付けていた。顔立ちは何処か凛々しく、勝気な表情が伺えた。女性はギンガたちを見ると、優しく微笑みながら言葉を口にした。


「初めまして。光の国の方たちですね?アールがお待ちしていますので、ご案内致します」


 女性はそう言うと、ギンガたちをアールのところに案内した。女性が案内する部屋に着くと、「こちらです」と、女性が言って扉を開けた。通された部屋には長机が設置されており、その机の左側に数人の闇の者が並んで座っていた。そして、その内の一人が席を立った。その人は、先程の女性と同様に銀髪とも見える綺麗な灰色をした長い髪を片側にまとめて軽く三つ編みをしている優しい表情をした中性的ともいえる綺麗な顔立ちの男性だった。その男性が口を開いた。


「初めまして。僕はこの闇の国の頭領をしている、アールといいます」

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