Case1―Scene1  意思なく狩る者

 使っていたスナイパーライフル―ウィンチェスターM70を抱えたまま急いで屋上から階段を下りた滝野は、用意していたカゴ台車にそのライフルを突っ込んだ。

 そのカゴ台車は、段ボールと白い布で、荷物の運搬中かのようにカモフラージュされている。

 滝野自身も運送業者を意識した服装をしていた。そしてそのままエレベーターで地下駐車場まで下って、とある乗用車の前まで台車を押していった。

 そこは監視カメラからも死角の位置である。停まっているのは、小豆色というのが少し珍しいが、ごく普通のセダンだ。

 周りに人がいないことを確認してから、布に包んだライフルを急いで車の後方に運ぶ。トランクを開けて、布に包んだままゴルフバックの中に入れた。

 そこまでやった滝野は少しだけ気を落ち着かせ、残りの布や段ボールを折りたたんで同じくトランクに入れた。カゴ台車も折りたたんで、それは後部座席に突っ込む。

 そして自分自身も後部座席に乗り込み、それまで来ていた緑色の衣服を脱ぎ、帽子もとって特徴のない白いTシャツと濃い群青色のカーゴパンツ姿になった。

 そして黒いウレタンマスクで顔の下半分を覆う。コロナ禍以降、マスクをつける習慣が、人々はまだ抜けていない。

 よどみのない運転で、つつがなくそのビルを出たが、滝野の心臓の鼓動は緩むことがなかった。何度やっても、この感覚は慣れることがない。


      ***


 家に着いた。日中は両親とも仕事に出ているため、家には誰もいない。

 玄関から家の中に入った滝野は、ゴルフバッグを元あった場所に慎重に置き、ライフルを取り出して自分の部屋に持って上がった。押し入れの中から上がれる天井裏が、こいつの定位置だ。

 天井裏の蓋をそっと閉めて、滝野はようやく一息つくことができた。少し休んでから、自分のベッドの下に隠してあったゴルフクラブを全て抱え上げる。

 ゴルフクラブをしまってから部屋に戻った滝野の呼吸と心臓は、まだ落ち着きを取り戻していなかった。まだ十九歳なのに、一度早鐘を打った心臓が、最近なかなか元に戻らなくなってきている。

 自分の部屋で少し落ち着いてから、滝野は車に戻り、台車や段ボールを納屋に戻した。そして車に傷がついていないかを念入りに確かめる。

 勝手に持ち出しているので、少しでもかすったりしてようものなら父親に殺されてしまう。

 今回も、特にどうにもなっていないことに胸をなでおろしてから、滝野は自室に戻った。ベッドに倒れ込んでから、再び深いため息をつく。

 人を殺すのは、これで三度目だった。


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