04 選ばれし仲間たち
店主は泣きながら謝罪し、2階に控えている男勇者のための仲間も紹介するという。
ユーシアは騙されたことに怒りもせず、むしろ店主を慰め、事を穏便に済ませてほしいとヴァールハイドに訴えた。
ヴァールハイドは仕方なく人払いをしてやり、それから小一時間後。
ヤジ馬のいなくなったクエストカウンターの前には、12人もの少女たちが整列していた。
先ほどのダンゴ4兄弟とは大違い。
ひとりひとりの顔立ちやプロポーション、身なりや立ち姿までもが完璧に整っていて、まるで美少女コンテストのように壮観だった。
「こんなに隠してやがったのかよ。しかも全員女とは、たいしたエロガキだな」
ヴァールハイドは舌を巻きつつも、彼女たちを品定めするように眺め回す。
「よし、決めた。そこのお前とお前、あとお前……うーん、やっぱりお前だ」
ヴァールハイドは3人目に純白のローブの少女を示していたのだが、やっぱり止めて派手な黒い服装の少女を選びなおしていた。
野菜か果物でも買うみたいにあっさり決めていたので、ユーシアはキョトンとする。
「えっ、自己紹介もしてもらってないよ? それに職業もわからないのに決めちゃっていいの?」
「どんなヤツかは大体わかる。戦士、商人、遊び人だ」
「えっ……?」「そんなので……?」「わかるの……?」
選抜された少女たちも、ズバリ言い当てられてキョトンとなる。
他人なのに姉妹のごとく目を丸くする4人の少女たち。
ヴァールハイドは背後で再開されている、酒宴の海を親指で示しながら言った。
「細かい話はあとあと、もうガマンできねぇよ」
ヴァールハイドは率先して空いているテーブルにつくと、ビールと大量の料理を注文。
運ばれてきたビールのジョッキ両手で包み込むようにして持ち、一気にあおる。
「ぷはぁーーーーっ! うんめぇーーーーっ!」
数年ぶりの喉ごしに、ヴァールハイドは稲妻に打たれたように身体をのけぞらせていた。
テーブルに並べられた料理を貪りながら、流されるように相席していた少女たちにもすすめる。
「久々のまともなメシだ! おい、お前らも食えよ! ここの料理は絶品だぞ!」
真っ先に手を付けたのは遊び人の少女、アソビッチだった。
「へへっ、もーらい! なんだかよくわかんないけど、お腹ペコちゃんだったし!」
次に手を付けたのはユーシア。
「そういえば、ぼくも朝からなにも食べてないんだった! いただきます!」
ユーシアの隣に座っていた商人の少女、カネアリスはつまらなそうに鼻を鳴らす。
「ふん、庶民の食べ物なんてわたくしの口に合いませんわ。でも、つまむくらいならしてさしあげてもよろしくてよ」
しかし戦士の少女、ノーユーズだけは小難しそうな顔で腕を組み、手を付けようとはしなかった。
「食べ物で釣るだなんて卑怯よ。それに言っときますけど、わたしが仕える勇者はナナピカ様だけだから」
「そうかい」とヴァールハイド。
「お前さんノーユーズとかいったな。騎士になりたいんだろ?」
ノーユーズの顔がさらに険しくなる。
「……なぜわかるの?」
「クソ坊ちゃんのために用意された女たちはきちんとした身なりをしてた。ほとんどが名門のお嬢サマなんだろう。お前さんはメシの席でも背筋をピンと伸ばしてるから、騎士の家のご令嬢サマだと思ってな」
「そうよ、わたしはナナピカ様にお仕えして武勲をたてるの。ナナピカ様はブレイブワン様の跡を継いで、キングダム王国の国王になられるお方。わたしは世界で初めて、女で王国騎士になるのよ」
ノーユーズは視線を移す。ソーセージを頬張っていたユーシアを射貫くように見つめた。
「だから、わたしの勇者はナナピカ様だけ。そもそも、こんな女の子に勇者がつとまるとは思えないわ」
ノーユーズからばっさり切り捨てられ、ユーシアは「ガーン」とショックを受ける。
ヴァールハイドそのふたりをまとめて切り捨てた。
「世界初の王国騎士と、世界初の女勇者か……。このまま行くとどっちも夢物語で終わっちまうだろう、な」
「そんなことはない!」「そんなことないよっ!?」
驚いた様子で食ってかかるノーユーズとユーシアを、「まあ聞け」となだめるヴァールハイド。
「男女勇者機会均等法って知ってるか?」
ノーユーズとユーシアは、交互に口を開く。
「知ってるわよそのくらい。魔王を討伐する勇者を選ぶときは、男の子の勇者と女の子の勇者をそれぞれ選ぶっていう法律でしょ?」
「その法律で、ぼくが最初の女勇者に選ばれたんだよね」
「そうだ。
「「ええっ!?!?」」
ハモったのはノーユーズとユーシア、アソビッチはそれよりもピザに夢中。
カネアリスは聞き捨てならぬとばかりに、厳しい声で問いただしていた。
「あなた、ご自分がなにをおっしゃっているのかわかっておりますの? 伝説の勇者様に対して不敬ですわよ、なにを根拠にそんなことを?」
「そんなこともわかんねぇのか? ユーシアみたいな庶民の田舎娘が勇者として選ばれた時点でおかしいだろうが」
「それは、公平な抽選による結果で……!」
「それは表向きの話だ。ちょうど良かったから選ばれたんだよ」
「ぼくが、ちょうどいい……? なににちょうどいいの?」
「国王から120
「ええっ、ぼくを笑い物に!? なんでそんなことを……!?」
ノーユーズとカネアリスはひと足先に気づいたのか、「「まさか……!?」」と声を揃える。
「そうだ。女は勇者にはふさわしくないってまわりに思わせて、男女勇者機会均等法を潰す口実にしたいんだよ。男女勇者機会均等法といえば、女の社会進出の旗印だ。へし折れりゃ、男支配の世界に逆戻りだ」
ユーシアはショックを隠しきれない様子だった。
「そんな……ブレイブワン様は、女の子がお嫌いだったなんて……」
「ブレイブワンも女は大好きさ。むしろ、女を力でねじ伏せるのが好きといったほうがいいかな。ブレイブワンは力の強い者が弱い者を支配し、自由にするのは当然の権利だと思っている、男よりも力で劣る女は、黙って男の足元で跪いているのが正しいと信じてるんだ」
ヴァールハイドは腰に下げていた袋を、どすんとテーブルに置く。
そしてユーシア以外の少女たちを、ひとりひとり見つめた。
「俺の言うことがウソだと思うのなら、コイツを賭けてもいいぜ。
言葉の意味がわからなかったのが、「「「なぐさみもの?」」」と首をかしげるユーシアとノーユーズとカネアリス。
それまで食べることに夢中だったアソビッチが「セフレってことっしょ?」と口を挟んだ。
「「せ……セフレっ!?」」
総毛立つノーユーズとカネアリス。
田舎者のユーシアだけは「せふれ?」となおも首をかしげている。
「あのクソ坊ちゃんにとっては、女なんてオムツの延長でしかねぇ。さんざん使って、汚れたら捨てる。そうやって女をとっかえひっかえして旅を続けるんだ。そして最後の魔王城には、全員男のパーティで行く。魔王討伐の名誉を使用済みのオムツなんかに渡してなるもんかって、な」
さらに苦々しい表情で付け加える。「かつての勇者がそうだったように、な」と。
「だから、俺といっしょに来い。といっても、俺には『力』はねぇ。腕相撲でもお前らに負けるかもしれん、だが約束しよう。お前らも、お前らの夢も、かならず守ってみせる」
心の内に蘇ってきた苦味を楽しむように、ヴァールハイドはニヤリと笑った。
「俺の信じる『法』で、な……!」
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