第50話
喋りながらダラダラとご飯を食べていると結構な時間が経過してしまい、そこから遊ぶのもどうかということになり各々部屋でゆっくりすることになった。
なので、俺はベッドに寝転がりながら、ぼーっと天井を眺めている。特に意味はないがなにかをする気にはならなかったのだ。
こうしていると思い出すのは昨晩のこと。ちょうど、こうやって天井を眺めていると詩乃がやって来たんだよな。
あれは夢ではなかったのか。
結局、有意義なアドバイスを貰えるでもなくあのあと、他愛ない雑談へと話題は切り替わってしまった。
こんなことなら言わなければと思ったが、そんなことを後悔したとてもう遅い。
彼女たちの言うように、明らかに詩乃の様子がおかしいのだから今はそれをどうするかを考えていかなければ。
すると、ギイイとドアが開く音がした。
「……詩乃?」
名を呼ぶが返事はない。
その代わり、沈黙の中で圭介さんが視界に入ってきた。
「悪かったな。オレで」
「圭介さん」
「由希奈もいるよー」
「……なんで二人が?」
二人がこの部屋に来る理由が皆目見当もつかない。イチャイチャしたいなら二人の部屋に行けばいいだけだし。俺に見せつけたいのか? そんなはずないけど、それくらいしか思いつかない。
「由希奈は詩乃の荷物を取りに来たの」
「オレは引っ越し」
「どういう……?」
「春吉。なにかしたの?」
責めるような言い方ではないものの、由希奈ちゃんは呆れたように言ってくる。
「別に、なにも」
「なにもなかったのに突然部屋を戻そうなんて言わなくない?」
「部屋を戻す?」
俺はなにも聞いていないが、知らないところでそんな話になっていたのか。
一言くらい言ってくれればいいのに。
いや、俺に言わないということはやはり原因は俺にあるということか。
「さっきな。で、そういうことなら最初に決めた部屋にするかってことになったわけ。オレとしては男同士ってのも気楽でいいから断る理由はなかったんだけど」
あはは、と笑いながら圭介さんは隣の由希奈ちゃんの方をちらと見る。
「由希奈は猛反対だったね。今日だって圭介とらぶらぶするつもりだったのに。あ、そうだ、ここでしてもいい?」
「多分だけど良くないと思います」
なにするつもりだよ。
二人でイチャイチャするくらいならいいけどそれ以上のことおっ始められるとどうしていいか分からん。
よくよく考えると目の前で延々とイチャイチャされるのもそれはそれで辛い気がするのでやっぱり反対だ。
「今日くらいはゆっくりさせてくれよ」
「むう」
やはり不満げな様子の由希奈ちゃんがこちらをじとりと睨んでくる。
「で、春吉は詩乃になにをしたの?」
「いや、だから」
「なにもしてないのに、あの詩乃がこんなこと言ってくるはずないじゃん。部屋を変えるってことは同室の春吉に問題があるってことでしょ」
やっぱりそうなるよなあ。
と、思いながらちらと圭介さんの方を見ると、ぎこちなく笑って頷いてきた。あれは肯定しているな。
「無理に話す必要はないけどさ、このままってわけにもいかないだろうし、相談くらい乗るぞ?」
「やっぱり圭介も由希奈と同じ部屋がいいってこと!?」
「……そうじゃなくてだな」
自分のペースを崩さない由希奈ちゃんは、ソファに座った圭介さんの隣に腰掛ける。
がっつり腕に抱きついているが、それくらいならば見てもなにも思わなかった。
ただ、不謹慎だと分かっていながらも、その光景を俺と詩乃に当てはめてしまう。
なんだかどきどきしてしまった。
「もしかして昨日の晩にオオカミさんになっちゃったとか?」
「……いや、そういうわけじゃ」
ないこともないのでいつものように言い切れない。その煮えきらないリアクションを二人は見逃してくれなかった。
「え、マジか?」
「春吉ってば、草食系に見えて意外とグイグイ迫っちゃう系なの!?」
「そういうのじゃなくて!」
ともあれ、俺一人で解決できる問題とは思えないので恥ずかしいのを我慢して相談することに。
とりあえず、宮城や北条さんに話した程度に、昨日の出来事を説明してみる。
由希奈ちゃんはわくわくとした表情を抑えきれていなかったが、圭介さんは真剣な顔つきで相槌を打ち続けてくれた。
全てを話し終えたとき、それを確認するように圭介さんは「なるほどね」と小さく言う。
「やるじゃん、春吉」
由希奈ちゃんはうきうきした表情で親指を立てた手を俺に向けてくる。この人からは有意義なアドバイス貰えなさそうだな。
「原因になりそうな出来事はそれ以外にはないんだよな?」
「はい」
王様ゲームのことを気にしているとは思えないし、夜中にしたゲームは終始円満な空気だった。
考えられるとしたらそれくらいだろう。
「直前の直前で急に怖くなるなんて、詩乃も可愛いところあるのね」
言いたいことは分かるけど、今そういうこと言わないでくれるかな。
「けど、そのあと普通にゲームしてたんだろ?」
「そうですね。そのときは変なところもなかったと思います」
「夢オチってことにして平然を装ってみたけど、一晩経つと恥ずかしさが限界突破した……とかか?」
「ああー」
それで俺を避けている、と。
そう言われてみると昨日は普通だったことも、朝から様子がおかしかったことも納得できる。
しかし、そんな圭介さんの予測に対して難色を示したのは意外にも由希奈ちゃんだった。
「ていうより」
んんーっと唸っていた由希奈ちゃんが口を開く。
「自分の意気地のなさに幻滅してるとかじゃない?」
「どういうことですか?」
「だって、その一連の件って詩乃から始めたんでしょ?」
俺は由希奈ちゃんに頷きを見せる。
あのとき一糸まとわぬ姿となり俺のところへやってきたのは詩乃だ。彼女があんなことをしなければ、昨日のあれはそもそも起こってない。
「てことは詩乃の中ではある程度考えがまとまって、それなりに覚悟して臨んだことだと思うんだよね。さすがに半端な気持ちでそんなことする子じゃないし」
「……確かにそうだな」
圭介さんも納得するように言う。
「でも、いざその瞬間が訪れると怖くなった。それってさ、なんか自分の覚悟ってその程度だったのかみたいな感じに捉えられるじゃん」
「一概にそうとは言い切れないだろうけれど」
圭介さんは曖昧な言葉を吐く。
思っていることは分かる。
つまりは、絶対にないと否定することもできないということだ。
同じ女の子だし、由希奈ちゃんの方が俺や圭介さんより詩乃の気持ちを理解できているだろう。
「いずれにしても、詩乃に問題があることは明らかだし、さっさと話し合うのが手っ取り早いんじゃない?」
「そりゃあそうなんだろうけど、でもなあ」
どう話せばいいのか分からないし、そもそも詩乃は今俺のことを避けているようだし。
「一日ゆっくり考えてみろよ。帰る準備とかいろいろあるだろうけど、話す時間くらいはあると思うぞ」
「……そう、ですね」
「詩乃の方にも由希奈からなんとなく話してみるよ。そこら辺は任せて」
「ありがとうございます」
そして、由希奈ちゃんは詩乃の荷物をまとめて部屋を出ていってしまう。
「大変だね、いろいろと」
同情しているのとは少し違うのだろうけれど、アイドルとの恋愛に苦労している先輩として圭介さんが笑いながら言う。
「はい」
俺はそれに力なく頷く。
これからどうするのか、どうしていくべきなのか、どうしていきたいのか、いろいろと考えなければ。
……しかし。
由希奈ちゃんに相談したのはもしかしたら正解だったのかもしれないな、と俺は彼女のことを少し見直した。
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