第46話


 さて、どうしたものか。


 ここは重要なシーンだぞ。

 この先、俺に何回王様が周ってくるか分からない。あと一回かもしれないし、五回かもしれない。逆に言えばこれが最初で最後のチャンスという可能性だってある。


 つまり。


 後悔のない命令を下すべきだ。


 ならば後悔のない命令とはなにか。


 王様ゲームってあれだよね、下僕共を一枚一枚ストリップさせていくゲームなんだよね?


 でもなあ。

 男が俺一人というシチュエーションで「二番が服を脱ぐ」なんて言えば間違いなくセクハラで捕まる。通報されること請け合いだ。


 なので、そういうのではなく。


 けれどもエスカレートを始めたこの空気を白けさせることもない、それでいて俺が後悔しないくらいに得するような命令。


 なんだそれ。


 考えろ。

 考えろ。


 こういうときに冗談めかしてセクハラ命令下して、周りの女の子が「えー春吉くんえっちー」みたいなこと言いながらも受け入れてくれるようなキャラであればと心底思う。


「さっさと決めなさいよ。沈黙が長ければ長いほどハードル上がるわよ?」


 宮城が急かしてくる。

 それは分かっているのだが。


「ハル様、思う存分えっちなの来ても大丈夫ですよ。わたしはハル様の命令なら真っ裸になってもいい覚悟です!」


「……私はできれば避けたいような」

「……あたしも」


 詩乃はわりとなんでも受け入れる所存なようだが京佳さんと宮城が微妙なリアクションをする。

 さすがにそんな命令はしないけれども。


「いいじゃない。それが王様ゲームの醍醐味ってやつでしょ。ねえ、麻莉亜?」


「そうですわね。ただし、命令を受ける側に回った際には一切の拒否は認めませんが」


 なにさせるつもりなんだ。

 アルコールが注入されたせいで彩花さんの理性は完全にぶっ飛んでいるご様子だ。シラフなら絶対そんなの許してくれないだろうし。


「そうですね……」


 さて、そろそろ決めないと宮城の言うとおりどんどんと命令しづらい空気になっていく。


「ハル様、わたし二番ですよ。二番が王様に性感帯を教えるとか盛り上がると思いませんか?」


 番号教えてるし。

 しかもそんなん盛り上がらんわ。


「一番が四番を一分間くすぐる」


「ハル様ぁ!」


「溜めたわりにはマイルドな命令ね」


「意気地のない男ですこと」


 アイドル三人が好き勝手言ってくる一方で京佳さんがほっと息を吐く。あの子がいるのが一番やりにくいのかも。


 まあ、いい意味でストッパーになってくれているわけだが。

 もう王様はこりごりだな。


「私が一番だけれど、四番は誰かしら?」


「私ですわ。お手柔らかにお願いします」


 名乗り出る北条さんを見て、酔っぱらいモードの彩花さんが舌なめずりをする。


 とりあえずその場しのぎ程度で言った命令だけど、結論から言うと中々の眼福具合だった。


 ワンピースタイプの部屋着を着ていた北条さんはくすぐりに耐性がなかったのか、それはもう暴れに暴れ回った。

 その結果、服が乱れたので綺麗な太ももが顕になったり、なんならもうパンツまで見えてしまうのではという勢いだった。


「次、私が王様ね」


 うっふっふっと彩花さんがさっきのテンションのまま笑みをこぼす。今のこの人がなにを命令してくるか予想できない。


「三番と五番、下着を脱ぎなさい。男ならパンツを、女ならブラで勘弁してあげる」


「なッ」


 下着を脱ぐ、だと!?


「さぁ、不運なのは誰と誰かしら?」


 妖艶な瞳を順に向けてくる彩花さん。

 俺は一番だから違う。

 誰だろうかと俺も視線を巡らせるが、安心しきった京佳さんも恐らく違う。


「わたしです」


「あと一人は?」


「私ですわ」


 詩乃と、悔しそうに手を挙げる北条さん。さっきからこの人あんまりツイてないな。


「さすがにこの場で脱ぐというのは可哀想だし、退室していいわよ」


 余裕の笑みを浮かべる彩花さんに恨めしそうな視線を向けながら北条さんは出ていく。


「わたしは別にここでもいいんだけどなー」


 なんて言いながら詩乃も後を追った。


 一分ほど席を外した二人が戻ってきた。ついつい視線が胸元に行ってしまう。

 詩乃は正直よく分からないが、北条さんのたわわに実った果実は固定するものがなくなり確実に揺れている。


「さて、次の王様は」


 その後、宮城、京佳さんと王様を引き当てそれなりの命令が下される。中休みを終えて、次の王様が北条さんになったとき事態はさらに悪化する。


「一番の方、上の服を一枚脱ぎなさい」


「ちょ、さすがにそれは」


 北条さん、目がマジになってやがる。

 下着を脱がされた時点で絶対この命令にするって決めてたんだ。だって王様になった瞬間に命令下したんだもん。


「大丈夫でしょう。晴香さんと京佳さんはジャージをですし、一枚脱ぐとしても中にはシャツなりを着ているはず」


 その先は言わなかったが、北条さんの視線が彩花さんに向いたことで何となく言いたいことは察した。


 彩花さんはシャツを着ているだけだから、あの下は普通に下着の可能性がある。

 辱めを受けたからやり返したいのだろう。


「あのー、わたしもシャツなんですが。しかも何ならノーブラなんですが」


「あなたは別に構わないでしょう」


「酷い言われようだ!?」


 詩乃が恐る恐る手を挙げるがピシャリと言われてしまう。

 さっき全裸になってもいいとか言ってたやつがなに言っても聞いてもらえないだろ。


「さあ、一番はどなたですの?」


 たゆんたゆんと胸を揺らす北条さんが仁王立ちのまま、ゆっくりと見渡す。


 京佳さんと宮城は目を向け合いお互いに首を振る。あんなことを言っていた詩乃も澄ました顔をしている。


 ということは。


「私よ」


 言ったのは彩花さんだ。

 彼女は、ふうっと息を吐いて、そして躊躇いなくシャツを脱いだ。ちらりとおへそが見えたかと思ったが、キャミソールがすぐにそれを隠す。


 どうやら下着の上にキャミソールを着ていたらしい。かろうじて下着姿を晒すことはなかったが、それでもさすがに恥ずかしいのだろう、彩花さんの顔はだんだんと赤くなっている。

 アルコールのせいじゃないよな?


 それに男からすれば十分に刺激的だ。


 これで彩花さんの方のスイッチも入ってしまい、ここからがもう地獄だった。


「二番が五番の胸を揉む!」


 次に王様になった彩花さんが言えば、京佳さんが北条さんの胸を揉むことになり。

 あまりの柔らかさに京佳さんは「ほうわぁぁ」と感動の声を漏らしていたので多分すごいんだと思います。


「三番が一枚脱ぐ!」


 北条さんは意地でも彩花さんを脱がせたいのか次も似たような命令。それの犠牲になったのは宮城だった。


「一番と王様がハグ!」


 間で詩乃の命令が入ったりしつつ。

 ちなみにこれは北条さんと詩乃がハグをした。解放された柔らかな胸を押し当てられ、詩乃がなぜか悔しさの涙を浮かべていた。


「一番が五番の体を弄る!」


 脱がせることを諦めた北条さんの命令により、宮城が彩花さんの体を弄った。

 まさか姉妹のこんな姿を見る機会が来ようとは。

 眼福眼福。


「四番が下の服を脱ぐ!」


 もはや彩花さんと北条さんの辱め合いと化したこの王様ゲームは突如として終わりを迎えることとなる。


 彩花さんの命令により宮城が下半身を顕にしたところでいよいよ終わりだなという空気になる。


「これが最後ね!」


 全員が引き終える。

 ちらと彩花さんが北条さんの手元を見ていたような気がした。俺の視線に気づいた彼女はすぐに視線を逸らしたが。


「王様は私よッ!」


 彩花さんがガッツポーズをして立ち上がる。

 北条さんは悔しそうにぐぬぬと唸った。


「二番が全裸になる!」


 わきゃきゃきゃと聞いたことのない笑いを浮かべながら彩花さんがもうとんでもないことを言う。


 あの人はさっき北条さんの手元を見ていた。ということはもしかするとあの人の番号を把握していたのでは?


 そう思ったが。


「二番はわたしですが」


 詩乃が手を挙げる。

 当然、嘘だろという顔をする彩花さん。

 全員が割り箸を置いたところ北条さんは五番だった。酔っていたから二と五を見間違えたってところかな。


 さて。

 さすがにこんなところで女の子を全裸にするわけにもいかないし、そろそろ終わるか。

 というのは俺の他、宮城や京佳さんも同じことを思ったらしい。


 楽しいはずの王様ゲームだったというのにまさかこんなことになるとは。


 糸が切れたように眠りについた彩花さん。北条さんは早々に部屋を出ていき、京佳さんがそれについていく。


「一つ学習したよ」


「ああ、俺も」


 彩花さんを連れて帰ろうとした宮城がげんなりしながら言った。きっと考えていることは同じだろう。


「お姉ちゃんにお酒飲ましちゃダメだ」

「彩花さんにお酒飲ましちゃダメだ」


 以上。

 ドキッ! アイドルだらけの王様ゲームのオチである。

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