第44話


「なんだって?」


 俺は訊き返す。


 訊き返す以外の選択がなかった。

 なにせ、宮城の口から放たれたものがあまりにも信じられないものだったからだ。


「だから、レクリエーション大会を始めるって」


「そのあと」


 それはさっきも聞いたんだよ。


「圭介さんと由希奈ちゃんは本人たちの……というか由希奈ちゃんの熱い要望により不参加です」


「それのあとだ」


 このレクリエーション大会は強制参加だと聞いていたけどあの二人はそもそもビーチバレーに参加していないのでそれも納得できる。


 問題はそのあとの宮城の発言だ。


「え、だから『ドキッ! アイドルだらけの王様ゲーム』を始めるよって」


「いろいろマズくないですかね!?」


 大広間に集められた俺たち。

 宮城のビーチバレー優勝による命令はこのレクリエーション大会に参加すること。

 なので俺たちに拒否権はなく、ここに集まることとなった。それは別に構わなかったのだが、問題はその内容だ。


 広い和室。

 俺たちは円になって座っている。


 俺、詩乃、北条さん、彩花さん、宮城、京佳さんの六人だ。


「まあ確かに九澄がハーレムになるのはいただけないけど。でも思ってたよりゲームがなくてさ。まさかトランプもないとは」


「申し訳ありません。これからはこのようなことがないよう注意しますわ」


「あ、いや別に責めてるわけじゃなくてですね」


 がくりとうなだれる北条さんにフォローの言葉をかける。さっきの言い方は責めているようにも聞こえてしまうぞ。


「で、そんな中でも盛り上がるゲームがなにかないかと必死に考えた結果、王様ゲームに行き着いたのです」


「行き着いたのです、じゃないよ。いやいや、やっぱりいろいろマズイよ。な?」


 この場に男は俺一人。

 圭介さんがいればまだしも、女性に囲まれて一人はマジでいたたまれない。

 それに、詩乃、彩花さん、北条さんとあの人気アイドル三人がいる。そんな人たちと王様ゲームだと? ファンにバレたら間違いなく殺される。


「わたしは大歓迎ですよ。ハル様にならなにされてもオッケーですし」


 しまった。

 訊く相手を間違えた。


「ダメですよね?」


「娯楽の一つも用意していなかったのはこちらの落ち度です。北条の人間として然るべき償いはさせていただく所存ですわ」


 くそ、面倒くせえな北条の人間。


「……」


 俺は一縷の望みを託すように彩花さんの方を見る。しかし、彼女は諦めたように肩をすくめた。


「罰ゲームだしね。勝負ごとで負けた以上はああだこうだと言うつもりはないわ」


「……そんな」


 俺はぐぬぬ、と歯を食いしばる。

 一応、京佳さんの方へと視線を向けてみたが彼女も諦めたように笑うだけだった。


 え、いいんですか?

 男一人いるこの状態で王様ゲームですよ? 王様ゲームといえばノリと勢い次第では少しえっちな展開になることも有り得るゲームですよ?


 いやね、あそこまで言ったものの俺としてはこんなの願ってもないというかね。

 そりゃ俺だって思春期の男子ですからね。こういう展開が嫌というわけでは決してなくてですね。


 ええ。

 皆さんがそれでいいと言うのであれば俺だってそりゃ王様ゲームはやぶさかではないですよ。


 よっし。

 そういうことならや・り・ま・す・か!


「まあ、確かに罰ゲームですしね」


 俺は仕方ないというスタンスを全面に押し出すように言ってみせる。特に誰も気にしていないかと思いきや、宮城が半眼を向けてきていた。


「なんですか?」


「いや別に」


 そうは言うが、じじーっと俺を見るのは止めない。


「九澄が良い思いすることになるのはちょっと気が引けると思って」


「そんなこと言われても」


「今度ご飯思いっきり奢ってもらおうかな?」


「……俺に拒否権はないからな」


 奢らせていただきますとも、ええ!


 かくして。

 ドキッ! アイドルだらけの王様ゲームが幕を開けた。


 知らない人間などいないだろうけど、一応簡単に王様ゲームとは何たるかを説明しておこう。


 王様ゲームとは、数字と王様と書いた棒を用意する。それを参加者はランダムに引く。

 王様を引いたプレイヤーは番号と命令を発言する。この際に名指しではなく番号で指名するところがミソだろう。


 今回で言うなら、参加者は六人なので一から五までの棒と王と書かれた棒を用意することになる。


 なんだかんだと盛り上がることから合コンなどでもよく扱われるパーティーゲームだ。


「それじゃあさっそくやりますか」


 じゃらじゃらと割り箸をシャッフルする。それを前に差し出したところで俺たちが順に引いていく。


 俺はドキドキしながら自分の割り箸の先を確認する。が、そう簡単に王様が引けるはずもなく、二番だった。


 まあ、初回だしね。


「王様だーれだ!」


 宮城の音頭に合わせて王様を引いたプレイヤーが挙手する。今回手を挙げたのは京佳さんだ。


 なんというか、一番害のなさそうな人だった。


「それじゃあ京佳ちゃん、命令をどうぞ」


「ええっと、どうしようかな」


 ぬーん、と考える素振りを見せる京佳さん。初回の命令ってそのあとの命令のバランスを決めることになるからな。

 考えるのも無理はない。


 王様ゲームの命令は徐々にエスカレートしていくものなので、初回の命令がシビア過ぎると後半がキツい。


 かと言って緩すぎる命令を下しても場の空気が締まらない。これは重要だぞ、京佳さん!


「とりあえず、最初だし軽くということで。二番の人が腕立て二十回……で」


「二番は誰ですか?」


 詩乃の問いかけに俺が手を挙げる。


 まあ、これくらいはね。

 しかし腕立て伏せか。基本的に家でゲームしているだけの俺に二十回もできるだろうか。


「ぐぬぬ、ぬ、ぬぬ」


 最初の十回はなんとか、それからの十回は本当に力を振り絞ったところで何とかこなせた。

 初回なんだし十回とかで良くない? その十回の上乗せ意外と辛かったんだけど。


 もう腕がぷるぷるしている。

 やべえ、保ってくれよ、オラの体!


「王様だーれだ!」


 二回目。


 手を挙げたのは詩乃だった。


「きました。合法的にわたしがハル様とイチャイチャできる機会がッ!」


 くわっと目を見開きながら詩乃が言う。

 王様になれたとしても指名は番号なので俺になるとは限らないのだが。果たして詩乃はどんな命令を下すのだろうか。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る