第5話


 顔合わせに始まり、手始めに一緒にゲームをしたり、そんな中で打ち合わせを重ねた俺たちはついにその日を迎えた。


『はい! みなさんこんにちは! シノチャンネルの笹原詩乃です。今日はなんと、わたしが応援しているゲーム配信者のハルさんと一緒にプレイします!』


『みなさん始めまして。ハルです。よろしくおねがいします』


 人気やチャンネル登録者数からして、明らかに俺がゲストだ。

 そんなことはないと言い張る笹原さんを納得させるのに随分と苦労した。


『さっそくプレイしたいと思います。今日やるのはもちろんドラゴンハンターです。ハルさんすごい上手なので楽しみにしててください』


『ちょっと、そんなにハードルあげないで……』


 そもそも、笹原さんとコラボしている時点で視聴者からヘイトを買っている可能性だってあるのに。

 俺からすればここは完全にアウェー、つまり敵地だ。緊張はしているしプレッシャーもある。


 が、しかし。


【ハルの腕前に期待】

【ハルさんイケボじゃね?】

【どこの誰だろ?】


 視聴者は意外と優しかった。

 気にしているのはこちらだけで、存外誰も気にしていないのかもしれないな。


【下手くそだったら殺す】

【これで下手だったら草】

【詩乃ちゃんにここまで言わせてんだから分かってんだろうな?】


 いや、しっかり嫌われてますね。

 こうなったらプレイで魅せるしかないようだ。下手なプレイをするとアンチが増えてしまう。


 顔出ししている笹原さんと違って、俺は声だけの出演だ。理由はもちろん顔バレが嫌だから。


 学校でも俺がゲーム配信をしているということを知っている生徒はいない。

 そもそも校外でもいない。

 せいぜい親父くらいだろうけど、親父も何をしているのかは詳しく知らないだろう。

 ゲームとかに疎いし。


『高難易度のクエストに挑もうって話をしてたんだけど、なにがいいかなー?』


 笹原さんがそう言うと、コメントでいくつかのクエストが挙げられた。そのどれもが二人で討伐するには難しいクエストだ。


 こいつら鬼畜かよ。


『ハルさん、どうします?』


『俺はなんでもいいですよ。あんまり簡単なクエストだとみんなに認めてもらえないかもしれませんし』


【お、ハルよく言った】

【言うやん】

【じゃあブレイズエンドドラゴンで決まりでしょ】

【それはいい。決定だ】

【ブレエン二人は鬼www】


『どうします?』


『とりあえずやってみますか?』


『はい!』


 ブレイズエンドドラゴンは最大人数である四人での討伐が推奨されている高難易度クエストだ。


 なので俺もこのクエストはクリアしていない。敵の動きを知りたくて、無謀な挑戦は何度かしたことはあるがやはり強かった。


『とりあえずアイテム回収しますか?』


『そうですね。手分けしましょう』


 クエストが始まった。

 俺たちはまずステージ内に散らばっているアイテムを回収することにした。

 回復以外にも様々なサポートアイテムがあるが、やはり回復なしでは勝てるものも勝てない。


 一応既に用意はしてあるが確実に足りない。回復アイテムはいくらあってもいいのだ。


 手分けしてアイテムの回収を済ました俺たちはいよいよブレイズエンドドラゴンのもとへと向かった。


 ちなみに今回、俺は相変わらず双剣。笹原さんは太刀を武器に挑戦している。


 ブレイズエンドドラゴンはスピードもそこそこあるので、斧の攻撃スピードでは当たらないのだ。


『あ、いました!』


 笹原さんが見つけ、マップ上にアイコンが出現する。俺もそこへ向かい合流した。


 戦闘が始まる。


 ブレイズエンドドラゴンは名前からも分かる通り炎タイプのドラゴンなので、もちろん攻撃も炎を吐いてきたりする。


 避けながら攻撃を繰り返すが、一定のダメージを負わせると上空に逃げてしまう。


 そしてファイヤーボールを吐いてくるのでそれも避けるのだが、数が多いのと攻撃の間隔が短いこともあり、ついにダメージを負ってしまう。


 一発当たっただけでライフゲージが三分の一も削られた。回復しなければあと二発で終わる。

 やはり一筋縄ではいかない相手だ。俺一人では確実に勝てなかった。


 しかし、今回は笹原さんがいる。俺の動きを見て自分の立ち回り方を瞬時に把握し動く。

 これほどまでにやりやすいパートナーはこれまで見たことがない。


【呼吸バッチリすぎる】

【幼馴染レベルの息の合い方】

【これは認めざるを得ないな。ハル、お前に詩乃は任せるぜ】


『ハルさん、わたし回復しますので』


『オッケー。俺がダメージ与えとく』


 それからさらに攻撃を続ける。

 笹原さんが回復し終われば今度は俺が回復を済ます。


『詩乃さん! 敵の広範囲攻撃来ますよ!』


『し、ししし詩乃!!?!?!??』


『避けて!』


 わけの分からないパニックを起こして、キャラクターが分かりやすくわたわたしている。


『ハッ! しまった!』


 回避が間に合わず笹原さんは大ダメージを受けてしまう。かろうじて体力を残したが、もはや風前の灯火である。


【ささしのどうした?】

【めちゃくちゃテンパってたな】

【なんか言ってたけど聞き取れた?】

【しししししとか言ってた気がする】


 笹原さんの本性を知らない人には俺に名前を呼ばれてテンパったとはわからないか。


 けど仕方ないだろ。

 笹原さんとは呼べないんだから。笹原さんは『SHINO』という名前でやっているわけだし。


 ここで名字で呼ぶと関係性を怪しまれかねない。いらない波風は立てたくないのだ。


『ラスト! 連携でいきましょう!』


『合点承知の助!』


 古いなあ。

 視聴者にもコメントでツッコまれているが、気にしている様子はない。仮にもアイドルなんだから、とは思うけどそういうところが素に思えてアイドルの姿とは別物に感じる。

 だから、視聴者は彼女をいつもより少し近い距離に感じれるんだろう。


 その後、連携攻撃によりドラゴンのライフを削り切り、俺たちは討伐に成功した。


【マジで二人でやりきったな】

【ハル、うますぎない?】

【最早夫婦の域】


『ふ、ふふふ、ふうふ!?!??!』


『ちょっと、落ち着いてください』


『あ、は、こほん。失礼しました。それじゃあもう一つくらいクエストしときます?』


『そうですね。せっかくなんで』


 そんな感じで、次はそこまで難しくないクエストを雑談混じりにプレイした。


 俺が個人的に配信しているときとは比べ物にならないコメント数に驚きつつ、いろんな意見を楽しませてもらった。


 中には俺の配信に興味を示してくれる人もいて、俺にとって有意義な時間となったことは間違いなかった。


 これは笹原さんに感謝だな。

 機会があればなにかお礼をしなければ。

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