第11話:【番詐欺】 ※お馬鹿視点




 街で見掛けた人間を、自分の物にするのが好きだ。

「番だ」と言えば、何でも許される。

 それがこの国だ。

 獣人が優先され、人間など獣人の為にだけ存在する下等生物だ。

 人間になら何をしても、許される。

 特に俺は侯爵家の後継者で、宰相の息子だ。


 地位も権力もある。

「番だと思ったが、勘違いだった」

 散々玩具にした人間を捨てる時は、この魔法の言葉を言うだけ。

 番だと判らない人間が悪いのだ。


「番じゃないと何度も言ったじゃない!」

 俺に捨てられた後、本当の番に出会ったとかで、人間の女が番の獣人と一緒に訴えに来た事があった。

 裁判所で会った獣人は、鳥の獣人だった。猛禽類ではなく、青い羽根が鮮やかなだけの弱者だ。


「抵抗らしい抵抗はされていない」

「照れているだけだと思った」

「そもそも番を判別出来ない人間が悪い」

「その男が運命の番だとの証拠は?実は最初から美人局つつもたせが目的で、近付いて来たのでは?」


 金と権力を使いまくって、裁判では満場一致の無罪を勝ち取った。

 後日、その二人が心中したと聞いた。

 さすが弱者の鳥獣人だな。

 俺なら、相手の獣人を殺すけどな。



 新しいターゲットを発見した。

 涼し気な顔立ちなのに、匂い立つような色気を感じる。

 しっかりと出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでるやらしい体も良い。

 いつものようにプロポーズした。


「君は運命の番だ!」


 拒否された。それは想定内だ。

 婚約者がいるだと?知るか、そんなこと。

 随分とかたくなだな。

 もしや婚約者が獣人なのか?それならば、面倒だからやめておくか。

「獣人ではありません」

 はっ!なんだ、人間の婚約者か!

 鼻で笑ってしまう。

 色々面倒臭くなったな。もう力尽くで良いな。




 奴隷にしてやろうとした人間の婚約者は、獣人では無かったが、得体の知れない男だった。

 偶々たまたま家に居た宰相である父が、土下座をして許しを請うている。

 獣人の王である獅子王以外にはひざまずかないと豪語していた、ジャガーの獣人である父。

 なぜだなぜだなぜだ。


 その女は、俺が奴隷にするはずだったのに!


 気が付いたら、俺は自室のベッドの上だった。

 そして父からあの男の正体を聞いた。

「ま……おう?」

 魔人の王?魔人など、お伽噺で……。



 俺は、部屋から出られなかった。

 怪我のせいもあるが、それ以上にあの男が恐ろしかった。

 毎日ビクビクして過ごした。

 自分より圧倒的に強い者に対する恐怖。

 人間が俺達肉食系獣人に対してどう感じているのか、理解出来た気がした。


 しかし怪我が完治すると、気持ちも変わった。

 あれは不意を突かれたからやられただけで、準備万端なら負けるはずがない。

 獣人が偉いのは変わらない。

 たかが一人の得体の知れない男など、恐るるに足らず。


 俺はまた、玩具にする人間運命の番を探しに街へ行く。

 それが俺に与えられた特権だから。



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