第12話:判定と引っ越し
綺麗に整った街の真ん中で、サファイアは感嘆の溜め息を漏らした。
場所は時計塔の天辺である。
婚約者のアレキサンダーに支えられ、街を見下ろしていた。
「素敵……これが、人間の街」
国の中心に在るのは城ではなく、時計塔だ。
これはサファイアの希望を叶えた形になっている。
「お城とか、真ん中にドーンってあると、誰の為の国なの?ってなるわ。見通しも悪くなるし」
獣人国では当り前の街の造りを、サファイアは嫌っていた。
亜人の国では、中心地に王宮があるが、それは利便性を考えてである。
獣人国のように、権力の象徴として在るわけではなかったので、サファイアの意見に同意していた。
人間の国の基礎を造った職人達や管理者も同じ考えであり、街並みは区別は有っても差別は無かった。
それは最初だけで、人が住み生活が始まれば、自ずと貧富の差は出てくるだろう。
しかしそれは与えられた物ではなく、自分達で作ったものだ。
街の外には、牧場や農業などが営める環境も整えられていた。
まだ家畜は居ないが、それも人間と一緒に来る手筈になっている。
商店にはまだ何も並んでいない。
食堂にも、まだ食材は一切ない。
それでも、サファイアは嬉しそうに街を眺めていた。
獣人国で、人間宛の不思議な手紙が届いてから、2ヶ月が経っていた。
2ヶ月前に突然居なくなった建築家や建設業者の事など、誰も気にしてなかった。
1ヶ月前に郊外の農家や牧場が丸ごと消えても、獣人が関係してない人間だけの職場だったので、「ここって何かなかったっけ?」程度の認識だった。
そして後から考えれば、人間達が身の回りの整理を始めたのがこの頃だった。
新しい物を買わなくなった。
要らない物を、処分し始めた。
私物を職場から持って帰り、家の中も整理整頓されている。
妙に浮かれた様子で、人間同士で話している事も増えた。
「あなた達は、人間をどう思っているのかしら?」
ある時、父親が獣人であり母親が人間の子供に、母親が問い掛けた。
「人間など、我々獣人に管理される存在ですよ」
肉食系獣人の子供は、殆どが同じ答えだった。
その家系の方針であり、父親の影響が強いのだろう。
「同じ立場だと思います。お母様も人間でしょう?」
極一部ではあったが、人間を尊重している獣人もいた。
その子供は、父親と同じ考えをしていた。
獣人と結婚した人間の元には、家族の可否が届いていた。
人間の街に一緒に行けるかどうかの判定である。
「可」となった者は、獣人であっても一緒に行く事が出来る。
人間と良い関係を築けている獣人だ。
「否」となった者は、人間差別が根付いている者なので、一緒に行く事は出来ない。
その場合は、人間が獣人の国に残るという選択肢もあったが、そもそもが差別主義の配偶者なので、残る選択をする者は皆無だった。
「保留」は、どちらとも言えないので、本人が来たかったら来ても良いという自主性に任せた判定だった。
但し、人間の国の事を説明してはいけない。
人間と一緒に新たな地へ引っ越すか?それだけの情報での選択だった。
殆どの「保留」判定の獣人は、行かない選択をした。
そして、魔王が現れてから3ヶ月。
不思議な手紙が届いてから2ヶ月。
獣人優先国から、殆どの人間が消えた。
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