第10話:最初の一歩




「えぇっと、この見渡す限りの平原が余っている土地?」

 地平線が見えるほどの草原の真ん中で、サファイアは360度グルリと見渡す。

 遥か彼方に山が見える。

 適度に森があり、ここからは見えないが川もあるはずだ。

「ここから見えない場所もだな。人間全員が住むのに、見える範囲だけで足りるのか?」

「そっか、全員だもんね」

 サファイアは明るい笑顔で両手を広げた。


「獣人に虐げられる事も無く、理不尽な事を強いられる事も、泣き寝入りする事も無いのよ!」

 飛び跳ねそうな勢いで喜ぶサファイアを見て、アレキサンダーは頬を緩めた。

 そして、心の中では怒りの炎を燃やしていた。

 サファイアが「人間と獣人の関係を、私の意見だけで終わらせられないわ」と言っていたので、黙って見守っていた。


 結果は、サファイアが更に傷付いただけだった。

 10回以上も引越しをし、国を跨ぐ程の引っ越しも何度もした。

 それなのに改善されない待遇。

 何度も【番詐欺】に遭った。



 まだサファイアが幼子の頃にアレキサンダーの運命の番だと判明したので、守りのペンダントを持たせる事が出来た。

 今回、あの宰相子息の獣人をふっ飛ばしたのが、守りのペンダントの力だ。


 あのペンダントがなかったら、サファイアは力尽くで襲われ、番に出会う前にこの世には居なかったかもしれない。


 まだ何も無い平原をはしゃいで歩き回るサファイアを、アレキサンダーは捕まえ抱き上げた。

「街の真ん中は、やはり時計台だと思うの。その周りには人々が憩える公園。そこから広がる大通りがあって、色々なお店が通りに並んでいるのよ!」

 想像の街並みを指差しながら、サファイアが説明する。

「人間だからって、入店を断られる事も無いの。だって人間の国だもの!」

 まだ自分の知らない苦労があったのか、とアレキサンダーはサファイアを抱く腕に力を込めた。




「職人を優先すれば良いのだな?」

 天人王カリナンは、アレキサンダーに確認の質問をする。

「あぁ。人間をこの大陸に受け入れるのは良いが、まさか何も無い所に連れて来るわけにはいかないだろう」

 カリナンはハテ?と首を傾げる。

 街など、魔法で建ててしまえば良いのでは?と。


「最初の職人達が住むのは、仮で魔法で建てた物で良いだろう。それで、お前はついの棲家を、自分の意見も聞かずに勝手に建てられた家に決めたいか?」

 アレキサンダーが、まだ何も記入されていない地図を指でトントンと叩く。

 他種族国との境界線だけが引いてある、人間国の地図。


 サファイアの意見を取り入れながら、街作りの技量を持つ職人と管理者を、先に招く予定だった。


 人間達にだけ、魔法で届けられた手紙。

 馬鹿らしいと捨てられれば、それまでのもの。

 だが文面の『獣人から逃れたい人間は、祈るが良い』を信じ、本当に祈った者の情報は、手紙を通じて魔人国の魔法省へと登録された。

 その中から建築家や建設業関係者、それを管理するに相応しい者を選定するのも簡単だった。



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