第3話:決別の始まり
「とりあえず、婚約者と相談させてください」
サファイアの言葉に、獣人の男は眉間に皺を寄せる。
あまりに意固地なサファイアの態度に、ある一つの可能性にたどり着いたからだ。
「お前の婚約者は獣人なのか?」
そう。人間と獣人が婚約する場合もあるのだ。
その場合、ちょっとした揉め事に発展する事もある。
しかしサファイアは首を横に振る。
「獣人ではありません」
それを聞き、獣人の男は最低の選択をした。
サファイアを拉致監禁する事にしたのだ。
嫌がるサファイアを羽交い締めにし、自分の従者にも手伝わせて、無理矢理近くに停めてあった馬車へと連れ込んだ。
さすがに見ていた人間が衛兵に通報したが、「番なんだろ?」と一蹴されてしまった。
その後しばらくは街でサファイアの噂がされていたが、そのうち忘れられてしまった。
獣人による人間の誘拐は、表沙汰にならない事も多い。
それだけこの国では獣人の横行が許されていた。
いや、この国に限らず、この大陸にある国の殆どがそうであった。
海を越えた先には別の大陸があると言われていたが、人間には海を越える力も技術も能力も、無かった。
どんなに嫌でも、この大陸で生きていくしかないのだ。
ある日、大陸中にある通達があった。
『獣人から逃れたい人間は、祈るが良い』
意味が解らない手紙が、人間全てに届いたのだ。
焦った王国サイドが調べたが、誰も配達などしていなかった。
朝起きると、人間の枕元に置いてあったという。
「まるで魔法のように」
人間が言うと、獣人は馬鹿にして笑う。
「魔法なんてのは、人間が作り出したお伽噺なんだよ」
力の弱い人間が、獣人に対抗する力として夢見た「魔法」という不思議な力。
風で空を飛んだり、何も無いところから火や水を出したり、土を操ったり、怪我を治したりする魔法。
最初は焦っていた獣人側も、特に何も起きず、次第に手紙の事は忘れていった。
人間とは良い関係が築けていると、獣人側は思っていたからだ。
人間が獣人と離れて暮らしたいはずがない、弱い人間が自分達から離れて生きていけるはずがない。
そんな驕り高ぶった気持ちがあったのは間違いなかった。
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