第2話:獣人と人間




 サファイアは戸惑っていた。


 買い物の為に街中を歩いていたら、いきなり目の前で獣人男性が片膝を突き、自分に手を差し伸べてきたのだ。


 そして言った台詞が「君は運命の番だ!」である。


 どう見ても、運命の番だとは思えなかった。

 ちょっと先に丸みのある耳に、長い尻尾。

 特徴的なブチ柄は、ヒョウかチーターかジャガーの獣人だろう。

 近くで柄を確かめれば判別出来るが、そこまでの必要性は感じていなかった。

 完全に成人しているのに「運命の番」だと告白してくるのは、大抵確信犯の【番詐欺】だ。


 勘違いでは無く、完全に解っていて人間を弄んで捨てる気満々な詐欺師クズだった。



「申し訳ありません。貴方は私の番ではありません」

 サファイアは、目の前の男に深々と頭を下げた。

 それを見て、男は口の端を持ち上げる。

 これも想定の内なのだろう。

「貴女は人間だから、番だと感じ取れないだけですよ。僕にはハッキリと判りました!」

 引き下がらない男に、サファイアは苦笑を浮かべた。




 サファイアは、とても美しい女性だった。

 深みがあるのに透明感のある、それこそサファイアのような青い瞳と髪をしていた。

 肌は白く、しかし病的では無く、頬などはほんのりと色付いている。

 スラリと長い手足にくびれたウエスト、適度な膨らみを持つ胸。


 人間ならほぼ全員が美人だと言うだろう。

 獣人の中では、肉食獣系統に好かれるタイプだった。

 現に、告白してきたのはネコ科肉食獣の獣人だ。



「私には婚約者がおりますの」

 サファイアは戸惑った表情を崩さずに、目の前の獣人へと説明した。

 それを見て、獣人の男はニヤリと卑しく笑う。

「この国の法律ではな、人間同士の婚約よりも、獣人との番が優先されるんだよ!」

 周りにも聞こえるように、大袈裟に腕を広げて叫んだ。

 パフォーマンスなのだろう。


 本当にこの国の法律では、獣人との番が人間同士の婚約よりも優先される。

 それどころか、婚姻さえも無効にされてしまう。


 全種族平等をうたっておきながら、あくまでも獣人が優先されるのだ。



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