運命の番だと言われました

仲村 嘉高

第1話:運命の番




「君は運命の番だ!」


 初めて会った獣人に、サファイアはいきなり告白をされた。


 街中での告白に、周りの獣人は「おめでとう」とか「幸せに」とかはやし立てる。

 何となくノリで言っているのが丸わかりである。


 対して、人間側の視線は冷たかった。

 なぜなら、告白されたサファイアが戸惑っていたからだ。


 あぁ、またか。


 人間側から溜め息と共に、軽蔑を含んだ呟きが漏れる。

 最近増えている、獣人による番詐欺だと、誰もが気が付いていたからだった。




【番詐欺】


 これは、番を感じられない人間相手に、獣人が「運命の番だ」と言い張り、無理矢理番にする行為を言う。

 最終的には、獣人側が飽きて「勘違いだった」と人間を捨てるのだ。


 番を感じられないとされている人間だが、実は「番では無い」という事は、何となく感じる事が出来た。

 しかし獣人相手にそれを訴えても「人間が番を感じるわけがない」「思い込みだ」と一蹴されてしまう。


 そして大概は、力尽くで番とされてしまうのだ。




 ここでは、獣人と人間が共存していたが、力の弱い人間を、獣人は見下す傾向があった。

 いくら【番詐欺】で人間が獣人を法的に訴えても、「獣人同士なら無い事。番を感じられない人間が悪い」と裁判までいく事すらまれだった。

 辛うじて裁判までいけても、「死ぬ気で抵抗されていれば、自分も気が付いた」「照れているのだと思った。本気の抵抗じゃ無かったから」等と、人間の非力を理由に、獣人側の情状酌量が認められてしまうのが殆どだった。


 獣人に目を付けられてしまった人間は、運が悪かったと諦めるしかない。

 それが人間側に植え付けられてしまった、歪んだ認識だった。


 自分は美人じゃ無いから大丈夫!などと、人間の感覚でいては防衛出来ない。

 獣人は種族により、好みが全然違うのだ。


 人間側から見たら、『運命の番』など呪いの言葉と等しかった。



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