第13話 近衛兵と対決

 わたし達は迷いの森を出て更に進み。小さな町に着く。宿屋を探して酒場に行くと。そこに居たのは二メートルを超す大男であった。更に三人の騎士姿の男がいた。胸には赤い剣の紋章がある。ラフエル帝国の近衛兵の紋章だ。


「どうした?目が怖いぞ」


 大男が、からかうように言う。それは絶対的な余裕であった。


「当たり前だ、ラフエル帝国の者が何用だ」


 わたしも口だけなら強きでいられた。そう、嫌な予感がしたのである。思い浮かんだのは『零式』の機能で登録した相手の場所が分かる機能だ。

考えられるのは海水浴場で出会った、アドギス皇帝である。普通は話をしただけで登録などできない。


 しかし、ラフエル帝国の技術力を使えば改造など簡単なはずだ。


 すると……近衛兵の三人は肉を食らい。殺気を高めるのであった。大男はサラダだけを食べていた。


「不思議そうだな、俺は菜食主義者でな。おっと、まだ、名前を言ってい

 

 なかったな。俺は金貨5000枚の賞金首の『ゴールドマウンテン』だ」


『ゴールドマウンテン』こいつが金貨5000枚の賞金首か、正に貫禄が違う。


 すると、近衛兵の一人が肉を食べ終わると剣を抜く。完全な挑発にわたしは乗り、酒場のマスターに水を一杯もらうと


「表に出ろ、勝負だ」


 わたしは勝負を仕掛ける。煮えたぎる思いは生死をかけた死闘の予感であった。ゴールドマウンテンが酒を一口飲むと。


「よかろう、いずれにしても、切り合う仲だ」


 剣を抜いた近衛兵の一人が席を立つ。甲冑に大きな盾が印象的であった。


「一騎打ちか、紗雪は手を出すな」

「はい、お姉様」


 少し歩いて広場に行くのであった。そして、表向きは騎士団のトップでも暗殺部隊を兼ねているのかもしれない。


 さて、これから、剣を交える相手だが、甲冑に切れの悪そうな剣なのに高い余裕を感じる。わたしは短剣を抜くと軽く足場を確認すると粘土の様な土であった。


「よし、いくぞ」


 掛け声と共に天殺を放つと金属音が辺りにこだまする。高速の切りつけに対して甲冑や盾に当たるだけであった。


「くっ、固いか」


 幸い、近衛兵の攻撃スピードが遅く避け易いのだ救いだ。わたしは頭を手でクシャクシャにして勝機を考える。関節部分を攻めるしかないか。


 その時である。近衛兵が剣を地面に突き刺して気合を入れると。


 『地蛇炎』


 突き刺した剣から炎が噴き出す。そして、蛇の様に炎が攻めてくる。


 これか、この近衛兵の余裕の正体か。ギリギリでかわすが勝機は見えない。イヤ、いける、本能的に雨が近い事を察知する。それまで我慢だ。


「どうした?逃げる一方だぞ」


 ゴールドマウンテンはヤジを入れるが焦りにしか聞こえなかった。すると、ポツポツと雨が降り出す。炎を操る者には雨は致命的な環境になる。強くなる雨の中で、わたしは一度体当たりをして近衛兵を転ばす。


 粘土質の地面は、ぐしゃぐしゃになっている。近衛兵は立つ事のできない様子である。


「勝負ありだ」


 わたしが勝利宣言をすると。ゴールドマウンテンはレイピアを取り出して。負けた近衛兵を突き刺す。


「何故、仲間を……」

「俺は雇われの賞金首だが弱いヤツには用がない」


 これが金貨5000枚のやり方か……。


「ところで、旧世界の化物を知っているか?」


 ゴールドマウンテンは真剣な表情で話しかけてくる。確か神龍のいた頃の旧世界の人々が開発した化物だ。わたしも詳しくは知らないが、凛銀による魔導を持つ者達と神龍を崇拝する者達との戦争で生まれた生物兵器であるはず。


「三日月銀は神龍の復活に使い、更に旧世界の化物とは、世界征服にでも使うのか?」

「さあな、俺は美味い酒が呑めればどうでもいいことだ」


 あのアドギス皇帝のことだ、永遠の命と更に世界征服など簡単に指示を出すだろう。


「それで、目の前にある三日月銀はどうするのだ?」


 わたしがゴールドマウンテンを睨むと。


「俺は血族でもない。酒好きな菜食主義者だ。時々、賞金稼ぎが現れて返り討ちして、そいつにかかった賞金で暮らすだけの事、依頼など堅苦しいモノは優先しないからな」


 そう言うと、ゴールドマウンテンの気配が消えていく。この気配の操り形……普通は出来ない。なにが、酒好きな菜食主義者だ。わたしにはとんでもなく強く感じられた。そんな事を考えていると。


「お姉様、怪我は有りませんか?」


 紗雪が近づいてくる。近衛兵の操った炎の蛇はかわすのに難儀した。素直に死にかけたと言うか迷ったが黙っておくことにした。


「あぁ、大丈夫だ」

「良かった、お姉様はずぶ濡れです。早く宿を探しましょう」


 わたしは疲れ切った体を動かして宿屋に到着する。とにかく、濡れた服を脱ぐと。タオルで体を拭きベッドに横になる。


「お、お姉様、裸はダメです」


 と、言いつつ、紗雪は頬を赤らめてモジモジしている。そうか、わたしの血が欲しいのだな。血の契約を交わした紗雪は定期的にわたしの血が必要になるのだ。わたしは裸で紗雪に近づき、一瞬のキスをする。


「はあはあ……お姉様……」


 紗雪は妖艶な雰囲気でわたしの腕に噛みつく。その後、紗雪は直ぐに寝てしまった。


 この思いはなんであろう?孤独に慣れているはずなのに、失って悲しむ存在か……。


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