第12話 旅の続き
安宿を探す事になった。
「ひいいいいいいい!!!!!」
夜中に紗雪の悲鳴が安宿の部屋に響きわたる。何事かと起きると紗雪が脅えている。
「お姉様、お姉様!出たのです」
「え?何がだ?」
「ゴキブリです。ゴキブリなのです」
そうか、氷目の里にはゴキブリは生息していないのか。わたしの育った古都リズムの旧市街地にはゴキブリなど普通にいた。
「お姉様が安宿にしたのが悪いのです」
確かに安かった。しかし、同意したのは紗雪である。
うん?
気のせいか部屋の気温が下がっていく感じだ。すると、紗雪の漆黒の瞳が青白くなる。
「アホか!ゴキブリ相手に本気を出してどうする」
わたしは全力で紗雪を止める。
「はぜ、はぜ、はぜ……」
荒い息の紗雪は瞳が黒くなり落ち着きを取り戻す。しかし、何処でゴキブリの情報を得たのだ?紗雪に問うと『零式』を指さす。そもそも、『零式』の情報にゴキブリなども載っていたのだな。
わたしは手のひらに零式のコインを乗せる。一分ほど頭をかきながら、長考する。
確かに『零式』の画面にゴキブリが出たら嫌だな。わたしは怖くて『零式』をしまう。結局、検索はできないでいた。ホント、便利なのも考えものだ。
***
わたし達は港町から徒歩で南東に向かうエスタは廃墟である。当然エスタに向かう商人などいるはずもなく。紗雪との二人旅である。そして、エスタに行く途中の事である。
「ここが迷いの森か……」
紗雪がポツリと呟く。そこは旅人なら絶対に避けるべき場所であった。
『零式』のおかげで、現在位置が分かるようになり、危険度がかなり軽減されたのであった。
しかし……。
「おかしいな『零式』の画面上では先に進んでいるのに、同じ所をグルグル回っている気がする」
「お姉様、木に目印をつけてみては?」
「おお、その手があったか」
流石、自称12歳である。さて……本当の紗雪は何歳であろう?氷目であるから色々あざとい。とにかく、ここは素直にアドバイスを受けて、わたしは短剣を抜き、木に切り傷を与える。
しばらく歩くと。切り傷のある木が見えてきた。
「これは先ほど付けた傷後……」
確かに『零式』の画面上では進んだ形跡かあるのであった。困ったな……。わたしが首を傾げていると。何か黒い霧が発生してきて、モンスターの吐息を感じる。
「そう言うことか」
わたしは剣を抜くと殺気の出所を探る。森の中で一本のモンスターを探す。一番、気の厚い場所に構えると、見えた!
「紗雪、まっすぐの大樹だ」
紗雪も漆黒の瞳が青白くなる。かんざしを弓に変えて構える。すると、目の前の大樹に顔が現れて動きだして「ぎ、ぎ、ぎ」と唸り始める。そして、ツルがムチの様に、わたし達に襲いかかってくる。本体である大樹は動きはなしか。
「紗雪、わたしがおとりになる。紗雪は遠距離からの弓矢で本体を狙え」
「はい、お姉様」
わたしは次々と襲いかかるツルを切り裂いていく。今度は根が地上に出て襲ってくる。わたしは天殺で応戦する。
「よし、道はひらけた、今だ!」
その言葉と共に紗雪は氷の矢を放つ。大樹の顔に氷の矢が何本も突き刺さると、大樹のモンスターは枯れていく。
「お姉様、大勝利ですね」
「あぁ」
しかし、迷いの森にモンスター?そんな噂は聞いた事が無い。むしろ、聖地なのでモンスターを拒む性質のはず。
『悪い前兆』……この世界で何かが起きている証拠だ。
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