第10話 情報屋

 旧市街を後にすると、情報屋のアイデムのもとに向かう事にした。そこは誰も来そうもない。アクセサリーショップの二階だ。紗雪は一階で待っていると言う。そうか、それも良かろう。


 わたしは二階に上がると。


「ブルーさん、ご機嫌いかが」

「む、その表情は何か掴んだな」


 アイデムはニヤニヤと笑みを浮かべている。この特徴的な笑みは金になる情報をつかんだからに違いない。


「強きだね、友達ができたと裏世界では今注目のまとだよ」

「紗雪のことか……」

「そう、途轍もなく強いとか。更には、ある者はヒールでフミフミされてヒイヒイ言いたいとかだよ」


 なんだ、その変人は、まったく、この偏った情報は確かにアイデムの物だ。


「それで、掴んだ情報は何だい?」

「これは凄い事なのだが、神龍の復活の為に二つの三日月銀のペンダントが必要らしい」


 神龍か……。


 それは神に一番近き存在でその生き血を飲めば永遠命が得られる伝説だ。


「そこでラフエル帝国が動いているとのこと」


 噂のラフエル帝国にはアドギス皇帝がいて、数々の武勇伝がある。これはかなり厄介な事になったな。わたしは頭をポリポリとかくと、神龍について更なる情報を求める。


「それで、他に情報はないのか?」

「数百年前の廃墟の街のエスタを滅ぼしたのは神龍らしい」


 流石アイデムである。わたしが感心していると、アイデムは更にニヤリとする。これは情報にお金がかかりそうだ。


「凄い情報は続くよ。『凛銀』はご存知かな?」

「あぁ、旧世界の『魔導』なる技術に必要なエネルギー源だ」

「はい、正解。エスタは、この凛銀の採掘で栄えた街なのだよ。肝心の話はこれから、その凛銀の原石を取りつくして、社会不安が広がり王宮の分裂を起こして内戦になり。経緯は不明だが神龍に滅ぼされたのだよ」


 うむ、少し難しいがエスタの滅びた理由は理解できた。


「さて、話を帝国に戻すよ。神龍は神なる力だ、ラフエル帝国の軍部が神龍を蘇らせたなどとしたら、他国との関係が最悪になるからね。更にこれは噂だが、精鋭の暗殺部隊が動いているとのことだ。このラフエル帝国には注意しなよ。」

「ありがとう、この情報の報酬はこれくらいでいいか?」

「毎度あり」


 わたしは二階の情報屋から、一階のアクセサリーショップに降りていくと紗雪が渋い顔をしている。


「お姉様、このお店は変だよ、売れそうもない物ばかり」

「二階の情報屋がメインだから仕方がないのよ」

「世の中には不思議な店もあるのだな」


 そんな会話をしながら宿屋に戻るのであった。


***


 わたしは夜眠れないでいた。三日月銀のペンダントを見て、精神安定を求めていた。この鈍い銀色の輝きは妖艶であった。しかし、少し角度を変えると。癒される銀色になる。わたしは氷目の民の占いを思い出して苦悩する。


『二つの三日月が合わさるとき……』


 確かこんな内容だった。双子の妹の持つモノとわたしの三日月銀のペンダントを会わせていいのか?


 結果的に神龍を復活させる事にならないのか?


 そもそも、妹は生きているのか?


 旅の歌姫が三日月銀のペンダントを持っていたとの軽い噂だけだ。わたしは色んな思いを考えていた。そう、答えの出ない事ばかりであった。


 「お姉様、眠れないの?」


 窓際で月明りに照らされる、わたしを見て紗雪が起きてきた。


「あぁ、いつもの事だ」


 わたしが眠れないのはホント飽きられるだろうな。でも、大切な時間なのだ。


「お姉様、少し冷えます。ベッドに戻っては?」

「そうだな、明日はエスタに向かう旅に出るのだから」


 わたしはベッドに入ると微睡がやってくる。その微睡の中で焼け落ちた故郷の事を考えていた。平和な毎日が過ぎていって。当たり前のように家族がいた。それが、ある夜に突然終わった。ゴブリンの群れに襲われたのだ。血族であるわたし達がゴブリンごときに全滅したのだ。それからは流れ流れて、バルカル共和国の古都、リズムで盗賊のベルサーに拾われ、生きる方法を学んだのだ。そして、この三日月銀と生き別れた妹だけが残ったのだ。


 静かに眠りにつく。朝、目覚めると宿屋の裏手にある広場に向かった。わたしは短剣を抜き、光を求めていた。


『天殺』を放ち大きなサボテン切り裂く。


 ありゃー意外ともろかったな。宿屋の主人に謝る事になった。


「お姉様、殺気が丸出しです。秋空の様に静かに一瞬で切り裂くことができれば更に強くなるでしょうね」

「見ていたのか、殺気のコントロールは剣を操る者の一生の課題だからな」

「ま、お互いに頑張りましょう」


 冷めた意見だ、氷目の紗雪に温かい言葉など期待してもダメだろうな。さて、情報は得た。今は廃墟の街、エスタに向かうのが一番無難だ。


 その前に……。


 ペジタの南にある海水浴場に寄り道することにした。

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