第9話 再び

 ペジタに着くと相変わらず、活気ある街が広がっていた。


「ここが、ペジタなの……凄い!!!」


紗雪は初めて見る、大都会に目をキラキラしていた。少し暴走して活気あるバザーに飛び込んでいた。ああああ……。絶対迷子になる。街に入って直ぐに『零式』を渡していて良かった。


 わたしは渋々に『零式』起動する。位置情報サービスで紗雪を探す。場所はバザーの最深部にいた。そこは金と塩を売る場所である。何故、金と塩なのかと言うと。

ペジタの南にある海の貿易の入口、サンザキ港からしか手に入らない。その影響でペジタは塩の慢性的な不足となっているので、値段以上に貴重品である。なので金の売買を行う場所の隣にあるのだ。仕方がない迎えに行くか。わたしはバザーの中を歩いて行くと……。交差点に香辛料のスペースがある。その売り場に近づくと独特の臭いがした。そう、世界中から集まった香辛料である。観光客向けの少量でも売っている。買うか考え込んでいると。


「いかん、いかん、紗雪を探さねば」


 香辛料の香りで寄り道は無しだ。先に進もう。バザーの最深部に着くと、紗雪は何故か塩の店主とアームレスリングをしていた。どうやら、賭けをしたらしい。紗雪が勝てば、塩を金貨一枚分、店主が勝てば金貨一枚を無条件で支払う。屈強な店主と比べて紗雪は余りにも体格差がある。しかし、紗雪は血族である。目の色が漆黒から青白くなると。劣勢が逆転する。店主が紗雪の目に気がつくと一気に勝敗がつく。


「お嬢ちゃん、血族なのはルール違反だよ」


 ここはわたしが納めねば。


「店主よ、少女の戯言だ、賞金の塩は要らない」


 わたしが二人の間に入って店主にわびる。経緯は分からないが、紗雪はまだ自称12歳だ、ここは素直に詫びよう


「えぇー塩、貰えないの?」

「当たり前だ、金貨一枚分の塩など旅人の身分でどうしろと言うのだ」

「ケチ……」

「まぁ、そう言うな、バザーの入口にアイスクリーム屋があった。そこで、甘い物でも食べて機嫌を直せ」


 バザーの入口まで戻ると、アイスクリームを買う。


「うわー、このアイスクリームなる物は、なに、なに」


 北の氷目の里にはない食べ物らしい。牛乳が無かったのだ、アイスクリームもなくても不思議ではない。近くの公園のベンチに座って、食べ始める。


「美味しいな」

「うん」


 紗雪との会話は停滞して言葉は減っていく。美味しい物を食べていると、不思議と無口になるのであった。


 わたし達はペジタ旧市街地の道を歩いていた。建物の入口の階段に腰かけている住民は皆、昼間から酒を飲み、死んだ目をしていた。ペジタは貿易都市国家である。富める者は更に儲かり。この場所の様に毎日を生きて行くのが精一杯の住民もいる。わたしは紗雪に本当の世界を見せてあげたかった。治安が悪いこの場所に女二人で大丈夫かと聞かれたら。


「天殺のブルーよ」

「怖い怖い……」


 などと、会話が聞こえてくる。そう『零式』の普及で正体がバレやすくなったのだ。すると、子供達が寄ってくる。あー小さい子供は苦手なのだよな。


「お姉さん、天殺見せて」

「ダメです」


 子供は時にかなり面倒くさい事になる。仕方がない、わたしは木の棒を拾い。天殺の型だけを見せてあげる。


「凄い、凄い、本物だ」


 わたし達は「じゃあ」と言ってその場をさる。さて、旧市街地はこれくらいでいいかな。わたし達が戻ろうとすると。


「そこの二人、俺と勝負しないか?」


 大男が近づいてくる。あいたたた、今日は厄日だ。たまに、自分の器を試したくなる者もいる。


「紗雪、挨拶をしてあげなさい」


 わたしがそう言うと。


「お姉様は面倒をわたしに押し付けて……仕方がないな」


 風流れが変わったと思うと、紗雪は漆黒の瞳が青白くなる。


「ひー……このチビも血族だ。その、青白い瞳はヤバイ、ご、ごめんなさい」


 大男は大急ぎで逃げて行く。うむ、器の違いが判るだけの力はあったか。

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