第8話 商人と共に

 さて、エスタだが。旧世界の都市であり、エスタはスチーク半島を治める小国であった。確か有名話だが王室の権力闘争が泥沼化して最後にはモンスターの餌食になり滅んだはずだ。とにかく、貿易都市ペジタに向かおう。わたしは呼吸を整えてマスターに尋ねる。


「マスター、商人の集まる場所は何処だい?」

「馬車に使う牧場に行くといい」

「ありがとう、これから向かうよ」


 酒場を後にすると。紗雪はワクワクした様子である。


「お姉様、都会に向かうのですか?」

「ああ、この世界で有数の都市だ」

「うふ……」


 この娘、食べ物が目当てかと直感的にわかる。まあいい、旅に前向きなのは歓迎できる仲間だ。わたし達は町外れの牧場に着くと商人たちが雑談をしている。


「こんにち、ペジタに行く商人はいますか?」

「おう、若いの、命が欲しければ、止めておけ」


 む!わたしが女だからか?


「剣の腕があればいいのか?」

「勿論だ、剣の腕は男女問わない」

「そうか……」


 わたしは迷いなく、短剣を抜き天殺を放つと一瞬で商人の首に剣を突きつける。


「ひーーー」


 商人は完全に降伏であった。


「お姉様、本気を出したらダメです」


 紗雪が呆れた様子で呟く。


「このやり取りは、用心棒として雇われる為だ、手を抜いてどうする」

「へー田舎者には分からない事ばかりです」


 紗雪は関心した様子であった。


「で、ペジタに行く商人は誰だい?」

「その若さで肝の据わった、嬢ちゃんだ。気に入った。俺がペジタに行こう」


 短剣を突きつけた商人が好意的に話始める。わたしは短剣をおろすとゆっくりとしまう。商談成立だ。わたしは、この商人の護衛として馬車に乗せてもらう事になった。


 翌日、馬車はクグルを出発してペジタに向かう街道を進んでいた。今回も馬車の荷台である。贅沢は言えないが快適性は皆無であった。少し、空を見ると青一色であった。うん?急に馬車が止まった。


「出た、モンスターだ」


 商人は悲鳴を上げて馬車は止まる。そう、大サソリが現れたのである。


「よし、退屈してたところだ、紗雪出るぞ」


 わたしは短剣を抜き、紗雪もかんざしを弓に変える。


「大サソリはかなりの上位モンスターだ。そして、一番危険なのがサソリの毒だ。紗雪、援護してくれ」

「はい、お姉様」


 紗雪は漆黒の瞳が青白くなり、髪を数本抜くと氷の矢になる。すると、ガサガサ!!!大サソリがこちらに突進してくる。速い、このままでは、紗雪を守りきれない。なんとかこちらに注意をよせなければ。わたしは天殺で右足に短剣で切りつける。


「危ない、お姉様!」


 大サソリはわたしの一瞬のスキを狙って毒の針を突きつけてくる。紗雪は氷の矢を放ち、毒針にヒットする。ふ~死にかけた。わたしは安堵すると更に大サソリの左足を天殺で切りつける。


「よし、敵の機動力を塞いだ」


 これで常人の移動スピードの紗雪の危険が減ったのである。しかし、胴体の方はかなり固そうだ。絶対的なスピードでも装甲の厚さは難儀するのであった。


 「お姉様、更に足に矢を打ち込みます。そのスキに馬車で逃げましょう」


 紗雪が叫ぶと、わたしは馬車に乗り込む。矢を放ち続け更に機動力を削ぐ、紗雪に馬車が近づき強引に乗せる。馬車は最大限のスピードで大サソリから逃げ出す。安全な距離は保たれ、商人の方を見ると震えていた。


「お嬢ちゃん達、助かったよ、でも、あんな強力なモンスターが街道に出てくるなんて何かの悪い前兆かもしれない」


 確かに強かった。最近この『悪い前兆』のセリフをよく聞く、悪い前兆か……。

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