第7話 金貨5000枚の賞金首

 山の中だと言うのに日差しが強く、家の中を明るくする。家の構造上、朝日が入るようにできているのだ。不意に横を見ると横に寝ていたはずの紗雪がいない。辺りを見回すと、紗雪は起きていた。


「紗雪、おはよう」

「はい、お姉様、おはようございます」


 無駄に元気だな……。


「今日が旅立ちの日です。実は、ほぼ寝ていません」

「大丈夫なのか?先ずは山越えからだぞ」

「ハンデです。五歳も歳の差があるので、わたしの優しさです」


 この娘は確か自称12歳のはずだ。


 ホント、この少女は可愛くない。いっそのこと、幼女扱いしてみるか。


 ドカ!


 足で蹴られた。余程イヤだったらしい。そんな事をしていたら時間はあっという間に過ぎていた。さて、わたしは『零式』を起動させると……。


 掲示板に書き込みがある。


『凍結湖に三日月銀の紋章がある神殿の伝説』

『廃墟の街、エスタに三日月銀のペンダントをした歌姫を見た』

『ラフエル帝国の大図書館に歌姫あり』


 これは『零式』を使った情報募集の結果であった。


「お姉様、この凍結湖なんか近くていいのでは?」

「わたしは三日月銀の伝説を追っている訳ではない。あくまでも、双子の妹を探しているのだ」

「それで、何処に行くのですか?」


 紗雪の問いに腕組みをして少々考えるのであった。ラフエル帝国は旅人に厳しく。廃墟の街、エスタは確かモンスターの巣になっていて、危険である。それでも、紗雪が仲間になり、頼れる戦力が増えたのだ。


……わたしは迷った末に。


「ラフエル帝国の大図書館だ!」


 ラフエル帝国は砂漠の貿易都市のペジタから南西の帝国である。何時までも『零式』を見ていても仕方がない。ご飯を食べて、旅の支度を整えて。さて、出発するか。先ずは、山を越えてクグルの町に行こう。そして、里の出口に向かうと老婆が立っていた。


「紗雪、これからは自由だ、世界中を周って、誰よりも強くなるのだよ」

「はい、ばば様」


 別れのハグをする二人を見てわたしは寂しい気持ちになった。イヤここがスタートだ、自分のホームを作ればいい。それから、わたし達は山道に入る。不思議と体が軽い。行と帰りでは全く違うのであった。これが雪の民の結界なのか……。


 峠も簡単に越えられて下りになる。そこに見えてきたのはクグルの町であった。


 山道を降りてクグルの町に入ると異様な視線を感じる。わたしは『零式』で調べてみると。


 それは金貨5000枚の賞金首であるゴールドマウンテンが現れたそうな。金貨5000枚なら家が一軒建つ金額であった。なんでもゴールドマウンテンは三日月銀のペンダントを探していたらしい。


 そう、わたしである。


「お姉様、そのゴールドマウンテンなる賞金首は強いのですか?」

「菜食主義者の酒好きなのは有名だが、わたしも古都、リズムから他国に出たのは数度なので噂くらいしかない」


 盗賊のわたしが言うのも変な話しだがリズムは治安が良く賞金首とは無縁であった。


「とにかく、情報を集めよう」

「はい、お姉様」


 そして、町の小さな酒場に行ってみると。余程怖かったのか臨時休業の看板が出ていた。それでもと思い、ドアを開けるとマスターが座っていた。


「あー君か、三日月銀の持ち主は……」


 疲れ切った様子のマスターはわたしの三日月銀のペンダントを見てやっと声がでる感じであった。


「はい、この剣にかけてわたしが三日月銀の持ち主です」


 わたしは少し強めに三日月銀の持ち主である事を主張した。それは決意表明でもあった。もしかしたら、妹の三日月銀も狙われているかもしれないからだ。そして返事を返すとマスターは落ち着いた様子になる。


「なんでも、ラフエル帝国に雇われたとか」


 ラフエル帝国?今から行く場所である。そう言えば、ラフエル帝国は最近悪い噂しか聞かない。


「ラフエル帝国は、気を付けた方が良い。噂では村を焼き討ちにして滅ぼしたとか」


 うーん……。


 先に行くのは、廃墟の街、エスタにするか。紗雪に同意を求めると頷くのであった。

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