第6話 隠れ里 2
その後、わたしは一泊、この里で宿をとる事になった。鹿肉のすき焼きで村人に歓迎された。このすき焼きなる料理は遥か東方の国のモノらしい。
しかし、この村には女性しか居ない。そう、氷目は血族の中でもかなり特殊である。死すると氷目は『氷宝』なる貴重な宝石になり。結果、命を狙われる事が多く。この里に隠れて暮らしているのだ。鹿肉を使った夕食が終わると、わたしは村の広場にて独りで星を眺めていた。
「お姉様……」
「紗雪か、この里からの星は綺麗に見えるな」
「何か悲しそうです」
「わたしの村はゴブリンの群れに襲われてもう無いのだよ」
それは厳しい現実であり、それは行き場のない感情になるのであった。憎しみではなく絶対的な孤独であった。いかん、気持ちが折れそうだ。
ここは……わたしは星空の下で短剣を抜く。
誰よりも速くと、わたしは短剣を一振りする。そして、辺りの静けさだけが印象的であった。
「やはり、この里はわたしの故郷に近い」
わたしは短剣をしまうと、三日月銀のペンダントを取り出し、紗雪に見せる。
「綺麗でしょう、これは生き別れた妹とお揃いなの。夜にこのペンダントを見ると心が落ち着く」
「その妹を探す旅をしているのですね。わたしは生まれてからこの里を出たことがない。明日の旅の出発を考えるとドキドキが止まらないの」
それは純粋な好奇心に思えた。
「そうだ、今から、一緒にお風呂に入りましょう」
「え?氷目もお風呂に入るの?」
「失礼なわたしは綺麗好きなのよ」
渋々に一緒にお風呂に入る事になった。ここは村人の全員がタダで入れるのである。
「個室は何処かな……?」
わたしは脱ぐ場所を探しているが見つからない。鍵のかかるロッカーが五体ほどあるだけであった。
「紗雪さん?」
「何を言っているのです、ここで脱ぐのです」
どうも、この遥か東方の文化が見え隠れしている。隠れ里なので文化交流が無い為に、東方の文化が薄まらないのだ。
「やはり、人前で脱ぐの?」
「遥か東方の国では当たり前です」
「うー恥ずかしい」
渋々、わたしは服を脱ぐのであった。盗賊に傭兵と暮らしてきたがこんな恥ずかしいのは初めてだ。紗雪の方を見るとロリ体系の姿があった。自称12歳なのが悩ましい。ふう~わたしが上を脱ぎ終わると。
「お姉様はプロポーションが良いな……」
紗雪の言葉に、だから、見るなと言いたくなる。ここは、我慢、我慢、であった。
わたしは体にバスタオルを巻いて温泉に入ろうとすると。
「NO!!!」
紗雪が絶叫する。どうやら、間違えたらしい。
「真っ裸です」
どうしてもダメらしいので仕方なくバスタオルを外す。そして、そーっと、足から温泉に入っていくと……。気持ちいい、これは癖になるぞ。しかし、熱いな。四十度は越えている。そんな温泉タイムを楽しんでいると。
「お姉様、血が欲しいです」
紗雪が妖艶な笑みで近づいてくる。時間か……ましては、熱い温泉に入っているのだ。わたしは腕を差し出すと、紗雪がガブリと咥える。しばらくして、紗雪が離れる。
「お姉様の血でイッてしまいました」
誤解の受ける表現だな。まあ、良い、流石に熱いのでわたしは温泉のお湯から出る事にした。
温泉のお風呂から出ると。広間にある、マッサージチェアで癒やされていた。
「あぁぁ……」
自然と声が漏れる。これはかなり気持ちいい。こんな気持ちいいモノはわたしも一台欲しい。『零式』で調べてみるとかなり高い。それをタダで座れるのは里が平等である証拠だ。その理由はこの里は女性ばかりなので、力仕事も女性がおこなう。ゆえに、この様な癒しの場があるのだ。
「お姉様、お疲れですね。わたしも御一緒しますね」
「おう、よきかな、よきかな」
わたしは微笑んで紗雪を招き入れる。そして、紗雪が隣に座るとやはり自然と、声が出るのであった。
「がががが……」
「あぁぁぁ……」
二人でまったりしていると、わたしはマッサージチェアに座りながら。さらに『零式』で遥か東方の文化を調べる。このお風呂文化にある瓶牛乳なるモノが欲しくなる。
紗雪に聞いてみると……。
「その様なモノは有りません」
贅沢な望みであったか。紗雪の反応からして、牛乳など、この里には無いのか。
「さて、お姉様、冷える前に戻りましょう」
「あ、ぁ」
紗雪の提案にゆっくりと頷き、頭をボリボリとかいて紗雪の家に向かう。今晩は紗雪の家で一泊するのだ。この帰り道では、わたしはセンチメンタルな気分になった。
紗雪には家族がいる。わたしには生き別れた双子の妹しかいない。三日月銀のペンダントを握り締めると目を瞑る、静かな里だと改めて思う。
「お姉様?」
「何でもない」
紗雪の不思議そうな反応にわたしは独りで生きてきた過去を振り返ると。少し、心が凛とした気持ちになるのであった。
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