第3話 北へ


 わたしはペジタから北に向かう、馬車の上に乗っていた。護衛の条件付きとはいえ乗心地は微妙。そう、北に向かう商人の馬車に乗せてもらったのだ。ゴロンと横になると『コイン』を手のひらに乗せる。それは通称『零式』を広げるのであった。


 この『零式』は仮想空間の中を移動して見知らぬ人とコミュニケーションができるのだ。それで『零式』を使い三日月銀のペンダントの情報を探していた。


 仮想空間を歩いていると。


「おやおや、古都リズムの女盗賊のブルーさんではないか」


 話かけてきたのは情報屋のアスデムであった。それは盗賊稼業でも情報が必要で証拠である。


「ブルーさん聞きましたよ、貿易都市ペジタで色々情報を漁っていたらしいね」


流石、情報屋だ、各国王室のスキャンダルから南方の内戦まで情報を持っている。


「あぁ、三日月銀のペンダントの歌姫を探していている。今は北の山脈に向かっている」

「ほほう、雪の民をお探しで?」

「まあ、そんなところだ」


 ペジタに店を構えるアイデムのアジトに行っても良かったのだがこうして話せるので後回しにしたのだ。


「おっと、時間、時間、すまないね、先客との会議の時間だ。また、アスデムをよろしく」


 アスデムのアバターは消えていく。


 さて、わたしも『零式』にインした本来の目的である、掲示板に『三日月銀の歌姫を求むと』書いて現実世界に戻る。ふと、外を見ると、高山植物を見つける。冬になればこの辺りも相当冷えるはずだ。そんな事を考えながら、馬車の荷台の上の旅も気楽で、良いものであると思うのであった。


 それから馬車の旅、三日日目の事である。突然、馬車が急ブレーキをかける。


「ひーゴブリンの群れだ!」


 運転しているペジタの商人が悲鳴を上げる。よーし、退屈していたところだ。

わたしは馬車の荷台から降りて短剣を抜く。ゴブリンの群れもまた石斧を振りかざす。襲いかかるゴブリン達は奇声を上げると突進してくる。わたしは石斧をかわして何処から攻めるかを考えるのであった。

一瞬のスキを見つけて得意のスピードで一匹目のゴブリンを短剣で切り裂く。


「弱いなーわたしのスピードはこんなものではないよ」


 強い脚力、それに反応する腕、一瞬で判断する眼力、このスピードは簡単なモノではない。そう血族による『天殺』である。


「次は誰だい?」


 わたしが威嚇すると、ゴブリンの群れはバラバラになって逃げだす。ま、ゴブリンだしこんなものであろう。ふと幼き日の焼き討ちを思い出す。わたしの村はゴブリンの群れに襲われたのだ。やはり、裏がある。ゴブリンの群れぐらいで落ちる村ではない。三日月銀のペンダントを見ると行き別れた妹のことと故郷の村を思い出す。銀色に光る三日月銀はわたしのざわつく心をおさめてくれた。

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