第19話王の苦悩
☆☆☆
「なぜ見つけられぬ!たかだか男一人を!やつは国民を引き連れこの国を去ったのだぞ!なのになぜ未だにやつの所在が掴めないのだ!」
ここのところずっとこの調子だ。
誰より王として気高く、品行旺盛に振る舞った男が、たった一人に血眼になっている。
相手は人間。ましてや、アルベールが連れた人間はただの一般人。
何も特別な技能や才覚を有しているわけではない。
王国では、平民だろうとなんだろうと身分や犯罪歴に関わらず騎士として取り立てていた。
それ故貴族達との軋轢は絶えなかったが、そんなもの意にも介さず平然と執り行っていた。
そのかいあってか、今日の強国がある。
だからそこ、アルベールの連れた住民達は脅威にすらならない。
才能があるものが、それ以上の努力と時間をかけて格上のモンスターと渡り合うすべを身につけている。
それなのに、未だに奴の報告が来ないことに苛立ちを隠せなかった。
訊くたびに、「今しばらくお持ちください」の一言が返ってくる毎日に、今しばらくとはいつだ!と、ついつい言い返したくなる。
だが、先の件で大きく信頼を失っている者からの叱責など、軋轢を生むだけと思い至り押し黙ってやり過ごしていた。
そんな中で王が手につける最初の業務は、溜まった書類を片付ける事だ。
内容に目を通すだけでため息が出る。
無能な貴族達が陰で自分の悪口を叩く一方で、自分に張り合えるだけの仕事をこなせない者たちの仕事が回ってくるのだ。
かつてない失態をしでかした王に付け入り、政権奪取を試みる無能な貴族の変わり、仕事をしているのは一体誰だと思っているのか。
自分をもう少し評価してもいいのではないか。
モンスターにビビり最初こそ愚策を取ったが、アルベール達が去ってからは、的確な指示で国を守り抜いた男は誰であったか認識してもらいたい。
こんな事を考えるのも何度目か。
書類に目を通しながら頭を抱え、自分の周りに有能な奴がいないことに再び怒りが湧き上がる。
せめて、状況を正しく認識する力があるものがいればそいつと意見を交えるのだが、貴族は自分の領土と権力にしか目がいかない論外しかいない。
平民では、圧倒的な知識が足りていない。
知ったところで、世界を知れば絶望して終わりだ。
そんな中で出てきたアルベールと名乗る男。
「はぁ。アルベールか……。」
もっと別の出会い方をしていれば、有能な右腕としてその手腕を発揮していたのではないかと、思考する上で必ず出てくる終着点。
そんな奴を敵として迎え撃たねばならないことに、脱力感が最後に襲うのも通例になってきた。
「まったく、世のこととは上手くいかぬものだな」
そう言って手を水差しに伸ばすと、不可解な点があることに今更ながら気がつく。
本来の自分ならば、とっくに気がついてもおかしくなかった。
その衝撃に、思わず水差しを取りそこね床にぶちまけた。
(おかしくないか?
私が想定するほどの男であるならば、こんなことをするだろうか?
いや、そこではないな)
王はこの辺一体の地図が頭の中に入っている。たとえどんなに小さな村だろうと、その頭脳からこぼれ落ちることはない。
なのにだ。
ここ数日の書類を思い返しても、ある村の存在が示された報告がない。
(どういうことだ?
何故隠した?
待て!落ち着け。
もし、これが意図的であるならば、私が想像するよりも遥か先を見据えているのではないか?)
最優の王である。ジル・ロード・プレリアスはある仮説がよぎる。
そして、その完璧な脳裏にはそのシナリオが出来上がっていた。
「なるほど。そういうことか……。ミッシュ!ミッシュは入るか!」
っと、大声で秘書官を呼びつける。
「はい。ここに」
「今すぐ地図を用意しろ!出来るだけ正確で、広大なやつを!それと、適当な兵を見繕ってくれ。出来れば、探索に長けた者がいい」
「はい。直ちに」
「待っていろ、アルベール。貴様の見据えるその先ごと、私が舵を握ってやる」
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