第16話お茶会
一森の中心部
森の中心部にあるここは、外で感じた神秘的それとはまた違った魅力があった。
清らかにして、心まで満たされそうな自然の香り。
口で取り込むすべての空気がうまいと感じるような錯覚。
王都の美しく綺麗な街とは違った、自然の強さと優しさに包まれた不思議な一体感がある。
通常の森がこれほどになるまで、一体どれだけの年月を有したのだろうか?
また、エルフ達が暮らすと噂の神樹はどれほどの森なのだろうか?
そして、思わず納得した。
なるほど、これほどの森に人間ごときを招きたくないのもわからんでもない。
凡庸にして愚かな種族、知識の種族として名高い彼らからすれば、人間がいかに矮小に映るか、この景色だけでも納得してしまう。
彼らが纏う気品のある風格は、生まれ持ってのものだけではないらしい。
「いやあー絶景絶景 。右も左も美女美女美女とは、目の前のあんたも美女だったら天国だったのになぁ。
引退しないのか、爺さん?」
軽く散策を終えたアルベールは、一息ついでに長老とお茶会という名の会議を始めていた。
本来はそちらがメインではあったはずなのだが、レナからすれば、好き勝手遊んで探索するほうがメインに思えるほどゆっくりと時間をかけて楽しんでいるように見えた。
通常であれば、エルフ達が会議を行うという大樹の中で行われるはずだが、木の根っこを机とし、丸太を椅子にしている有り様だった。
つまるところ、最初から対話の意思がないと表明しているのと同義だった。
おまけに木の上からは殺気が飛んできており、アルベールと長老はチェスをしている始末だ。
もはやこれは会議の体をなしていなかった。
「まったく、随分と嫌われたものだ」
「本題に早速入られてはいかがかな
?見たところ時間もないようですし」
長老が唇を切ると、さっそく本題へと内容が変わる。
「簡単に言うと、援軍を出してくれ」
重々しい語るエルフとは対象的に、溶融綽々と答える。
少し上から目線に語るさまは、上位種族のプライドか怒りを伝えるためか?
「ほう?人間が我々上位種族に指図をすると。せめて、平等な条約を結ぶのが筋じゃないですかな?」
当然の反応だ。
なんの条件もなしに援軍を出せば、それは人類への服従を意味する。
そもそもこれでは同盟として成立をしていなかった。
「まだそんなことを言っているのか?上だの下だのと、いい加減先に進んだからどうだ?せっかく長生きしてるんだから」
『上』即ち、上位種族を指す。
上位種族とは、身体能力と魔力が取分け高い種族を意味する。もしくは、そのどちらかが卓越しているものだ。
代わって人類は、最弱の種族。
見た目がほとんど変わらないこの種族を前に、人類は長年恐怖してきた。傭兵達が忌み嫌われる理由としては、この種族の存在が大きいだろう。
そして彼らが恐れる上位種族は一般的に、リザードマン、トロール、エルフなどを指す。
リザードマンは硬い鱗が全身を覆い、鋭い爪を持っているという。
物理攻撃に強い耐性があり、攻撃、防御ともに高いステータスがあるのだとか。
トロールは異常な回復力と高い防御力、加えてオーガを凌ぐパワーを持ち合わせている。
中でも一番厄介なのが、異常な回復力である。
物理攻撃ならば瞬時に回復させることができる。
しかし、酸や火傷などの回復力は人間と大差ないらしい。
エルフもこれらに並ぶ化け物中の化け物である。
その種族を前にこの態度、彼らからすれば面白くないだろう。
「我々は見下したことは一度もありませんよ。ただ、どんなに平等に推し量ろうとしても、我々の視界には人間の
“に” の字も視界に入らないので、ついつい見下げてしまうだけのこと」
さっきの礼と言わんばかりに仕掛けてきた長老は、発言や態度からも見て取れるほど強者の言い分を吐露する。
「そうかそうか。森に暮らす田舎者には、文字を読むことすらできなかったのか。それはすまなかった」
両者互いに薄ら笑いを浮かべ、穏やかに話す口調に反し内容はお互いに悪意を感じさせる。
「「ハッハッハッ」」
二人の嘲笑が響き、またしてもアルベールが仕掛ける。
「話は変わるが爺さん。この森にはやたらと美女が多いな?何でだろうな」
アルベールはエルフが出した不味いお茶を軽く口に含み、様子を伺う。
「それはそうでしょう。人間(家畜)と同レベルのエルフがいて、エルフを名乗れましょうか?」
表情を崩さず、誤魔化しているのか本当に質問の意図が読めているのかはわからない。
だが、アルベールは不敵な笑みを見せつけるようにニタリとした。
「男を見ないなと思ってな。
先程数人見かけたが、こっちに殺気だたせている者たちはまだ若い。
一体どうゆうことなのかな」
顎を引き、表情とは異なる異質な目線がエルフを縛る。
「さて、何のことを言っているか
とんとわかりませんが」
一瞬、常人にはわからないほどの細かな動揺。
その一瞬を見逃さなかったアルベールは、冷静に嫌味を含むように告げる。
「ボケたふりがうまいな、爺さん。
男がいないのは、戦争に負けたからじゃないのか?この森に住んでいるのは、住むところがないからじゃないのか?チェック」
二人が舌戦を繰り広げるが、チェス盤でも激しい攻防戦が続けられていた。
「はて、どうですかな。無知なあまり、妄想が過ぎるようで」
自分が見せた些細な失態。それに気取られてことを反省し、余裕の表情を浮かべ淡々とコマを進めていく。
しかし、アルベールは嫌らしい口調で愉しげに話を続ける。
「じいさん。先程のあの女の言葉」
『やっぱり人間にも、女の人ちゃんといるんだ!やっぱいいね、人間種は!すぐに男女がわかるからね!』
レナに発したエルフの子の言葉。
「あの言葉から察するに、人間種以外の種族と何かしら交流があったことは容易に想像できる。それに加えて、エルフは他種族との交流は皆無に等しい。
なのにだ……あの娘は、何であんなことを言ったのだろうなあ?」
ニヤニヤ笑みを浮かべたまま的確にゲームを進める。
「…さあ、なぜなのでしょうか。
小娘の戯言一つで物事を確定することほど愚かなことはありませんよ」
「そうだな。だが、この仮説が正しいのなら、お前達がここにいるのにも説明がつく」
「それは面白い妄想ですな。ぜひお聞かせ願いますでしょうか?」
「では、一つ。
お前らがこんな辺鄙な場所で暮らしている理由だが。
それは先程述べた通り……負けたからだろ?
そしてその際多く仲間を失った。
でなきゃ、この数は説明できない。
数からして三分の一もいないんじゃないか?
そして何より、俺が森ここにいる事自体変だよな?
普通許可するか?そんなこと。
普段のお前たちなら、あの場で俺を殺しても問題はなかったはず。
だが、お前はそうしなかった。
なぜなんだろうなぁ……」
アルベールはここであえて言葉を止め、ちらりと長老を眺める。
「理由は簡単。
それは、これから起こり得るかもしれない未知の脅威を恐れたから。
だからこそ、お前達は人間ごときに峻厳な態度で接したのだろ?」
彼の解答に答えなどない。
証人もいなければ証拠もない。
しかし、アルベールの言はエルフを黙らせるだけの内容だった。
ピクリとも動かずチェス盤を眺め黙りこくるエルフだったが、その謎の静けさが余計に不気味であった。アルベールへと殺気だたせる者達の痛い眼差しが余計強くなるのを感じつつ、アルベールはエルフの顔を覗き込む。
「……………………。」
「それとも何か?一言一句違わずに、今ここで説明できると?
俺が提示する以上の真実を」
時より見せるもう一人のアルベール。
その二つの顔を持つアルベールに、レナは少し恐怖を感じていた。
「………………………っ!!」
「ちょっと待って。あなたが言うように、仮に、他種族に敗れここに住んでいるからって何の問題があるの?」
レナが話に割り込み、状況を整理させる。
「あるさ」
即答で返す。
「自分達より強いやつらが
勝手に戦争をして、勝手に負けてくれたんだぜ。これほどいいことはないさ。力をつける前にやっちまおうぜ。っていうのが普通だと思うけどな、俺は」
悠然と微笑するアルベールは、出されたお茶を片手に揺らす。
そして表情はいつものアルベールへと戻っていた。
「なるほど。だったら同盟した方がお互いのためになるということね」
「そゆこと」
アルベールは優しくレナに笑いかけた。
彼の笑みからはまだ何か違う意味がある気がしたが、あえて何も口出しをしなかった。
「いいでしょう。ならば一人だけ、
あなた方に同行させる。
これでどうですか?」
周囲を取り囲むエルフがいつ仕掛けてもおかしくない中、長老から出た折衷案。
「ああ。で、そっちの条件は?」
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