第14話それぞれの想い
一一 古びた町一一
アルベール達は森へと向かう道中、一休みのため古びた町へと足を踏み入れていた。
寂れきったがらんどうの空間からは、人の営みの痕跡が遠い昔の出来事だったことを如実に理解させた。
各々が好き勝手休憩する中で、アルベールは一つ一つ崩壊した家々を見て回った。
そして、小さな町を軽く見回りまだ読めそうな本を回収などを行っていた。
だが、アルベールのお眼鏡にかなう品物が小さな町で見つかることもなく、アルベールは井戸へと腰を掛けた。
「ねぇ、少しいいかしら?」
そこに話しかけてきたのは、レナだった。
休憩中話しかけるのは少し気が引けたが、疲れた素振りを見せない様子を確認し話しかける。
「別に、構わないが」
そう言うと、アルベールはルートの確認をしていたであろう地図をしまうためバックを開くと、数え切れないほどの異国の本と珍妙な物をのぞかせた。
「どうかしたかい?」
「なにも」
レナは、バックから覗かせた珍妙な物に視線が思わず目が惹かれた。
見たことがない形状をした品々に、一体誰がどんな目的で生み出したのか想像しただけでワクワクした。
その他にも、異国の書物を解読しながら作者が込めた想いや技術を知ることがレナは比較的好きだった。
が、それについて言及すると、レナの本題からそれて途方の方へと誘われる気がしてやめた。
「それでは、君の問いを聞こうか」
「ええ」
レナはここで一呼吸。
緊張のせいか呼吸が少し浅くなり、少し弱々しい印象だった。
「エルフって、どういう種族なの?」
「急にどうしたんだい?」
アルベールはレナの顔が少しこわばっていることを察すると、視線を落とす。
レナは両手で二の腕を掴み、少し震えていた。
自分より上位の存在に恐怖を感じていたのだろう。
アルベールは自分の問いを無かったように取り下げ質問に答える。
「まあいいか。最も人間に近い見た目と体つきをしている種族であり、知識の種族と呼ばれることがある。
また、他種族との交流をよしとしない文化や肌の接触を極めて拒絶する風習がある。
挙げたらきりがないが、エルフにもさまざまな種類がいるなど性質的にも人間に近いものがある」
未知の存在と対面する恐怖を和らげるためか、なるべくわかりやすく共通点を多く伝えた。
目の前に立っているのはただの少女、レナの大人びた雰囲気と凛とした態度でついつい傭兵仲間と同じように接してしまうが、改めてか弱き少女であることを再認識する。
「実際に会ったことはあるの?」
「いや、ないが何かの書物で読んだことがある」
レナはアルベールの書物というワードに反応し、先程のバックへ視線を戻す。
そして、レナでは読めそうにない文字で書かれている本が今一度目に止まった。
「あなたの無駄に知識がある理由がなんとなくわかったわ。ありがとう」
レナは薄っすらと感づいていたことを、ここで確信へと変えたようだった。そして、不安を解消したというよりも、それを受け入れたように思えた。
「さて、そろそろ出発でもしますか」
アルベール達は再び森へと動き出す。
一一酒場
「セレン。またお酒を飲まれているのですか?あなたがいないと、王都から来られた方々の指導ができませんのよ」
酒場で一人飲んだくれるセレンは、住民達の指導をほっぽりすて一人カウンターテーブルで項垂れていた。
「わーってるよ。でもよ、目の前に酒があって我慢するほうが無理があるだろ。あっ、なくなっちまった。親父、おかわりくれい♪」
セレンは木製でできたジョッキを片手に、ろれつが回らないくらい完全に酔っぱらっていた。
「ほんとにそれだけが理由なんですかね……。そういえば、カゲミツさんはどこにいかれたんですか?先程から姿が見えませんので」
「あぁ、あいつなぁ。後ろのソファーでぶっ倒れてんぞ。私に飲み比べで勝負しようなんて百年早いんだよ」
セレンはカウンターテーブルに潰れたまま、指でカゲミツがいるソファーを指す。
すると、カゲミツは完全に潰れてよだれを垂らして眠っていた。
「あらあら、カゲミツさんも飲まれていたんですね」
そう言うと、フィナはカゲミツの横に座り、カゲミツの頭を膝へと乗っけた。
俗に言う、膝枕である。
「大丈夫ですか?体調は悪くなっていませんか?」
「お前、ほんと男の趣味悪いよな。そんなののどこがいいんだ?酒が弱くて、女に弱くて、肝っ玉が小さい男のよぉ。いいのは面だけとか、ダメ男の欲張りのせみたいなやつだぜ」
「あら、素敵じゃないですか。女性にモテるのはいい男の証拠ですよ」
「ったく、育ちのいいのも考えもんだな。ダメ男とモテ男の違いもわからねぇんだから。あーヤダヤダ、私も連れてってくれればよかったのに」
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