第5話 赤髪の剣士

 気がつくと、そこは真っ暗闇の世界だった。状況を把握しようにも、一向に目が慣れてくれない。どうしよう。

「……フフフ、実ニ愉快ダ。不安ニナッテイルヤツヲミルノハ」

「……! だ、誰!?」

「オマエノ抱エル『不安』ダ」

あたりを見まわしたが、姿は見えない。

「探シテモムダダ。目ニハ見エナイ」

身の危険を感じ、方向もわからぬまま走り出した。

「逃ゲテモムダダ。フフフ……ハハハハハ」

不気味な笑い声が鳴り響く。わき目もふらず必死に逃げるが、何かにつまづいて転んだ。アタマにズキズキとした痛みが走り、寒気もしてきた。チカラのかけら1個しかないのに、何をどうすれば……もう一歩も動けない。

「……敵に背中を見せるな」

近くからの声に、思わずビクッとした。

「必殺剣……花鳥風月」

後方で、ヒュッと風を切るような音がした。

「グ、グワァァーーーー!」

バサッという音とともに、しだいに視界が明るくなった。苔むす庭が広がっている。そして目の前には、ペルシアンレッドの長い髪をした女剣士が。

「あ、ありがとうございま……」

「私の庭を荒らしたのは、そなただな」 

「え?」

「さきほど、走り回っていたであろう」

さっきつまづいたのって……この庭石か!

「ス、スミマセン!」

「分かればよい」

と言い置いて、苔の手入れに勤しみ始めた。

 その様子をしばらく眺めていると、まだ何かあるのか、と振り返らずに問われた。

「実は、『生きるチカラ』と呼ばれるものを探していまして……」

興味を引いたようで、女剣士さんがクルリと振り向く。

「そなたは生きているように見えるが……何故なにゆえそれを探しているのだ」

「……端的に言うと、自分自身を取り戻して元の世界に戻るためです」

「……なるほど。ならば、探すという認識を改めねばなるまい」

「どういうことでしょうか」

「チカラとは、己の内に秘められているとものだ」

言われてみれば、最初のかけらを入手したときはそんな感じだったかもしれない。

「アドバイス、目からウロコです。ありがとうございました」

深々と頭を下げて立ち去ろうとしたが、引き留められた。

「……待て。チカラに気づくだけでは不十分だ。先ほどの件で思い知ったであろう。負の感情に背中を向けた自分を。内なる敵にチカラで対抗できるよう、そなた自身を鍛える必要がある」

この人が次に言おうとしていることが分かり、私は黙ってしまった。

「そなたが万里一空の境地を目指す所存なら、私も全力で指南しよう」

「……ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

私は覚悟を決めた。

「わかった。そういえば、名を名乗っていなかったな。私は塁。佐々木塁だ」

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