第4話 時空の扉

「おぉ! おめでとー!」

部屋に戻ってスマートウォッチの液晶画面を見せると、エストさんは作業の手を止め、喜んでくれた。

「これって、知力…ですかね?」

「そう。かけらがこんなに早く見つかるなんてスゴイじゃない」

カフェに行ったのはなりゆきだけど、勇気を出したことで結果が出て嬉しい。

「早く2つめを探しに行きたいです」

俄然、やる気が出てきた。


    ◇◇


 翌日、私たちは図書館の大広間にいた。昨日は落ち着かなくて堪能する余裕がなかったが、改めて見ると、ため息が出るほど美しい。気がついたら、エストさんは豆粒くらいに見えるほど先まで進んでいた。

「何時間でもいられますよね」

ようやく、エストさんに追いついた。

「そうだね。私は、この大きな地球儀が美しいなと思って。平面の地図では表現できない、世界の距離や形のひずみも追求できるから」

「……『時空のひずみ』も表現できたりするんでしょうか」

「え?」

その瞬間、スマートウォッチが再び光り出し、少し離れた所からギーッと何かが動くような音がした。エストさんと顔を見合わせる。

「……行ってみよう」

 彫像の視線の先にある回廊へ小走りで向かう。すると、白い階段の隣にあったはずの本棚が90度回転していた。

「あれ、ここに隠し扉はないはずだけど……」

小部屋をのぞくと、さらに地下へと続く階段があった。

 地下も古書の香りでいっぱいだったが、地上とはうって変わって薄暗い場所だった。年季の入った閲覧机には、バンカーズランプと見開き状態の分厚い本が置かれている。部屋の奥には重厚な扉があった。

「まさか、こんな空間があったなんてね」

「なんだか胸騒ぎがします……」

 少し波打った本のページには、走り書きで文字が書かれていた。

「よし、機械翻訳の出番ね」

「え、そんな便利なものがあったんですか!?」

「ふふ、ニガテなことをアウトソースするのは基本でしょ」

釈然としない私をよそに、翻訳ソフトが文字をなめらかに読み上げる。


 時空の旅の記録。この部屋の扉を開けると、現実世界とは異なる時間・空間が広がっている。

 4つの『生きるチカラ』について。①知力インテリジェンスを制する者、魔法を制する。②協奏力コンチェルトを制する者、仲間との連携技を制する。③行動力アクションを制する者、経験値を制する。④促進力エンパワーメントを制する者、運のよさを制する。ルールを理解した者だけが、目の前の扉を開けることを許される……


「要するに、ここから先は異世界ってわけね」

「エストさんも同行してくれますよね?」

「これはあなたのチカラを取り戻す旅。だから、あなたが行かないと」

「まだ属性も分からないのに、旅立てません……!」

「もう1つ見つけたじゃない。こうなったら、見切り発車よ」

「でも、いつ戻ってこられるか分からないじゃないですか!」

言うと思った、と笑いながら、エストさんは翻訳ソフトに本を読み上げさせた。

「時の流れ。異なる世界の1年は、今いる世界の1日に同じ」

そう言って、私の腕をつかみ、扉の前まで連れてこられた。

一時いっときのことだから安心して。あなたがいない間にこっちで動きがあれば、この部屋にメモを残しておくから。じゃ、いってらっしゃい」

「ちょっ……!」

言い終わる前に、エストさんが開けた扉へと、私は吸い込まれていった――





 

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