第3話 チカラのかけら
私は今、占い師エストさんが所有する小型ポッドに同乗している。エストさんは、世界各地の宿泊施設やゲストハウスを利用して、旅をしながら仕事しているそうだ。毎日決まった時間に出社するのが当たり前だったけど、場所や時間を選ばないシゴトって自由でいいなぁ。にしても、どうやってチカラのかけらを探すのか。
「そもそも、チカラって何ですか? 知識やスキルでしょうか?」
「というより、無意識レベルで、息を吸って吐くようにできることかな」
「そのチカラは、元の世界でも通用するんでしょうか」
「そう。スキルと違って、職業や時代を超えて活かせるモノだからね」
「なるほど。エストさんのチカラは何ですか?」
「私?
「なるほどー。たしかに、見た目に反して話しやすいです(笑)」
まだ会って間もないのに、不思議と冗談が言えるようになった。
「それって、ほめてる? けなしてる?」
「もちろん、ほめてます。ちなみに、そのかけらはどうやって見つけたんですか?」
「ひとつ例を出すと…よく友人の相談に乗っていたんだけど、話を聞いた後に『聞いてくれてありがとう!』って感謝されることが多くて。その相手の笑顔が忘れられないなぁって感じたときに、かけらが現れたの」
◇◇
「さ、着いたわ」
エストさんは、教会裏側の駐車スペースにポッドを停め、広場のほうへ歩き出した。
「こ、ここは……もしやプルンクザール!?」
「そう、世界一美しい図書館ね」
「ちょっと待ってください。出発からまだ2時間ですよね? 信じられない……」
「ハイパーループを使えば、世界なんて箱庭同然よ」
そう言い放ち、ずんずんと図書館の奥へ進む。大広間を抜け、「関係者以外立ち入り禁止」と書かれたドアの前まで来た。
「……こんなところまで入って、怒られませんか?」
「あぁ、借主だから大丈夫」
疑惑の目を向けると、ほら、と賃貸契約書のホログラムを見せられる。ドアの向こうの白いらせん階段を上りきった先に、いくつかの部屋があった。
「今回は奮発して、一番大きい部屋にしたの。あ、お代は請求しないから安心して」
壮麗なバロック様式の広間とは異なり、白を基調にしたシンプルな部屋だった。内装を観察していると、エストさんが荷ほどきをしながら話しかけてきた。
「そういえば、ドイツ語できるの?」
「え?」
「さっきのドアの貼り紙、読めてみたいだから」
「まぁ、すこし勉強していたので……」
「じゃ、せっかくだから観光でもしてきなよ」
ほら行った行った、と何枚かのユーロ紙幣を握らされた。
◇◇
腹ごしらえに、近くのカフェでものぞいてみよう。”CAFE LANDTMANN”と書かれたおしゃれな看板が目に入った。たしか日本にも支店がある有名なカフェだ。
席に案内され、メニューに目を通す。名物のシュニッツェル以外は、さすがに分からない。英語のメニューを見せてもらおうかな。
"Bitte bringen Sie mir ein englisches Menü."
と店員さんにお願いすると、すぐに持ってきてくれた。ドイツ語を話す私に興味をもったようで、思いがけず会話が続いた。その国の言葉で話が通じるのって楽しい。 お店のオススメということで結局、シュニッツェルとパンケーキを頼んだ。
おいしいものを食べているうちに、ふと思い出した。仕事や旅行で外国を訪れる前に、必ず現地の言葉を学んでいる。おかげで、台湾での緊迫したビジネス交渉を和ませることができたんだ――と、そのとき。スマートウォッチの漆黒の画面に、文字が浮かび上がった。『好奇心』。
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