第2話 黒の占い師

 珈琲のアロマで目が覚めた。見慣れない天井。

「気がついた?」

ガバッと身を起こすと、黒いフェイスベールで顔を覆った占い師風の女性が、部屋の入口近くに立っていた。ベールから、グレージュの髪が覗いている。

「あ、ビックリさせちゃった? 安心して。わたしはエスト。あなたを待ってたの」

誰? 思わず後ずさる。

「あ、申し遅れたけど、こういう者です」

と名刺を差し出される。

「……頂戴します」

見かけによらず、かわいらしいデザイン。職業は…やっぱり占い師か。

「実は絵師もやってて。それも自分で描いたの」

よく見たら、ローブもかわいらしいキャラクターの刺繍入りだ。

「へぇ……スゴイ、ですね」

とっさに名刺入れを出そうとバッグを探したが、見つからない。

「今週起こりうる出来事について鑑定をしていたら、過去の世界から来訪者あり……っていう予言があったんだけど、そこから出てきた時はビックリしちゃった」

エストは、目の前のクローゼットを指さした。

「なんだかワケありみたいね。特別に占ってあげるわ」

「え? あ、お金もってないんで、大丈夫です……! お世話になりました!」

会釈し、あわてて部屋を出ようとする。

「あ、ちょっと待って! 今のままじゃ、元の世界には帰れないよ!」


    ◇◇


「とりあえず、座って。ホットコーヒーと牛乳出しコーヒー、どっちがいい?」

「え、牛乳出しコーヒー!?…あ、スミマセン。いただきます」

ふふっと笑われてしまった。つい大きな声を出してしまって恥ずかしい。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

まさか、SNSでバズってた代物にここで会えるとは…うん、おいしい。あ、のんびりおうちカフェを楽しんでいる場合じゃなかった。

「さてと……この世界――あなたにとっては未来だけど――にあなたが来たのは、『時空のひずみ』のせいだと思う」

「じ、『時空のひずみ』? 昔ゲーマーでしたけど、この状況では笑えません……」

「だよね、私も最初信じられなかった。過去から人がやってくるなんて。でも、どうやら本当みたい。ここに来る前、何が起きたか思い出せる?」

「うーん……」

首をかしげながら思い出そうとする。

「あ!」

左手につけていたスマートウォッチを、まじまじと見つめる。

「どうかした?」

「これが急に光り出して……気がついたらここに」

今は真っ黒で何も映っていない。なにげなく画面をタップするも、変化なし。電源ボタンをONにしてみたが、動く気配がない。

「……充電させてもらってもいいでしょうか?」

「いいけど、バッテリーの問題じゃないと思う」

「どういうことですか?」

「話を戻すわね。だれでも『時空のひずみ』に引き寄せられるわけじゃない。ひずみに入るきっかけがあるの。それが、腕につけているデバイスというわけ」

「そんな……これ、市販品なんですけど」

「あなた特有の状況に、デバイスが反応したとしたら?」

「まぁ、ライフログ機能はありますけど……まさかそれが?」

「ありえる。あなたの身に危険が迫っていると認識して、ひずみを引き起こした。そのせいで、デバイスが動かなくなったのかなと」

「……どうすればいいんでしょうか」

「デバイスを動かすには、あなたの『生きるチカラ』を取り戻さないといけない」

「生きるチカラ……ですか?」

「そう。あなたの生きる時間軸で、自信をもって生きるためにね」

「自信……」

「デバイスがこの世界に導いたからには、1つめのチカラが見つかるはず」


    ◇◇

 

 占い師さんによれば、『生きるチカラ』とは知力インテリジェンス協奏力コンチェルト行動力アクション促進力エンパワーメントという4つの属性に分かれているらしい。知力は思考に秀でたチカラ。協奏力は仲間と連携するチカラ。行動力は何かを成し遂げるチカラ。促進力はだれかを助けるチカラ。取り戻したチカラをスマートウォッチに注げば、『時空のひずみ』が再び出現するとか――

「この4つをすべて兼ね備えないといけないんでしょうか…」

「実は人によってバラツキがあるの。だから『チカラのかけら』探しをすれば、自分がどのタイプか分かる」

「チカラのかけら、ですか」

「そう。3つのかけらを先に集められた属性が、あなたの属性というわけ。まぁ、立て続けに同じ属性のかけらが見つかる保証はないけれど」

憂鬱な日常でも、見知らぬ未来にいるよりマシ。かけらを集めて早く戻りたい。

「よし。そうと決まれば、いざ、かけら探しの旅へ!」

まったく心の準備ができていないのに、長旅になりそうで不安しかない……




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