仲間が居ないから、1人で全部やって魔王城をなんとかします

たけし888

潜入、そして最終決戦

 眼前には巨大な城がそびえる。

 王都から指定された旅の目的地── 魔王城だ。


「とうとうここまでやってきたな、勇者」

「ああ……過労死で転生を果たしてからはや数年……ここで王に才能を見出されたのは幸運だったが、とても長い道のりだった」

「滅ぼされた故郷の仇……この手で必ず!」


「なあ、おい、そこの人間。何一人でぶつぶつ言ってんだ? ちょっと怖いぞ」

「成敗!」

「ぐわああ!」


 オレはパトロールと思われる魔物を一刀で切り伏せた。血を払い納刀し、他に敵がいないか注意深く観察する。

 一人でやって来たからか、誰も居ない。事前に情報が伝わっていて強力な中ボスとか四天王とかが配備されてるなんてことはなかったみたいだ。


「だからやっぱオレが正しかったんだよ、大勢の仲間とか居ないほうが効率良いって」

「だよなー。パーティー組むと目立つし、宿代かさむし、めんどくさい恋愛イベントとか起きるじゃん」

「女とか友達とかどうでもいいからな」

「まあ寂しすぎて人格が分裂しちゃったのは一人旅のせいだけどな。ははっ」


 相も変わらずぶつぶつ喋りながらこっそりと城へ入っていく。さすがに強そうな魔物が大勢居るな……。

 普通のパーティーなら即見つかってエンカウントしまくりながら苦労して魔王の所まで行くんだろうな。

 普通ならな。


「こういう時はオレの出番だな」

「その通りだ。忍者の魂を装備!」


 身にまとっていた鎧が瞬時に変化し隠密行動に適した黒装束へと変わる。間合いを意識した長い刀は取り回しのいい短刀に。重いブーツも軽量な草履に……


「なんか話し声が聞こえたぞ……? そこに誰か隠れているな!?」

「残念だったな。後ろだ!」

「ぐええ!」


 これがオレの切り札“魂のレンタル“。

 転生を果たしたとは言え、「お前はもう必要なものを持っている」だとか言われて特別なスキルは何も与えてもらえなかった。代わりに活用することになったのがこれだ。

 アクセサリとして身に付ければ、熟練した専門家の装備やスキルを丸ごと借りられるという代物。一人旅で浮いた資金をやりくりして、あらゆるジョブの魂を年額で借りておいたんだ。


「だから、オレに仲間なんて必要ないし一人で全部なんとかなるぜ!」


 ビーッ ビーッ


「あれ?」

「貴様……魔王城に潜入するとはいい度胸だ。だが“忍者狩り“の異名を取る私の前で、貴様のような隠密が通用すると思うな!」

「まずいぞオレ! 忍者対策の魔導トラップだ」

「慌てるな! こんな時こそ魂レンタルを活用するタイミングじゃないか?」

「確かに……!」

「え、何? いきなり一人で喋り出して怖……」

「相手が忍者殺しなら……忍者をやめればいいんだよな! 装備! 戦士の魂!!」

「忍者殺し殺しの大剣だと……!? ぐわああああ!!」


 ピンチの時こそ臨機応変に魂を切り替えて対処する。

 これが一人旅の極意だぜ!


「こちら戦士対策術部隊! ターゲットと交戦します!」

「反射術師の魂!! オレに生半可な魔法は効かないぜ!」


「あらゆる魔術を貫き通す我が”幽世の槍”を食らうが良い……」

「退魔師の魂!! 神秘には神秘で対抗だ!」


「ククク……僕が闇の女神から授かったチートスキルは”絶対無敵インビンシブル”。美味しい料理を食べる瞬間以外は攻撃が効かないのさ……」

「王室専属お菓子職人の魂!! 即席料理お持ちしました!!」


「俺様の空気毒で苦しみながら死ねい!」

「無機ゴーレムの魂!! 戦いに呼吸なんていらないぜ!」


「自爆攻撃を喰らえええええ!」

「空間転移者の魂!! どっか行ってろ!」


 さすが魔王城だ。

 魔王軍が誇る特殊部隊に未知の幹部、闇落ちした勇者に独特な能力の精鋭まで数え切れないほどの敵がいる。でもオレにとっては何も問題ない。だって1人で何でも出来るから!!


 そんな激闘が続き、オレはとうとう魔王の玉座へとやってきた。


「人間との戦争を始めてはや1000年── 初めて我々の守りを突破した人間が、まさか1人きりの精神異常者だとはな」

「違うぜ。1人だからこそここまで来られたんだ」

「フッ……そうかも知れぬな。ならば見せてみるがよい。この魔王の前に立ち、貴様はどのような力で対抗しようと言うのか!!」


 ついに魔王が立ち上がると、部屋全体が振動し凄まじい重圧を感じる。

 相手は魔王軍のトップ……まともに戦っても勝ち目はない。

 それなら!!


 バッ!!!


「直角90度のお辞儀……だと?」

「あの~申し遅れました、わたくし勇者をしておりますアキラと申します。アポなしでの訪問大変申し訳ございません! 実は魔王様にある事業を提案したく……」

「待て……貴様、私に商談を持ちかけようと言うのか?」

「はい!」

「目に一点の曇りもないな……」


 それもそのはずだ。

 なぜなら、オレが魔王城にやってきた目的はそもそも魔王を殺すことではないからな。


「こちら資料となっております~」

「あっ文字大きめで見やすいな。助かるぞ」

「僭越ながら、体格の大きい魔王様にとっては小さな文字は見にくいかと思い特注サイズの紙へ執筆して参りました」

「気配り上手よのう。2700歳ともなると流石に老眼でな……」


 魔王は気を良くしたのか、思いの外素直に資料へ目を通した。

 しかしその表情はみるみるうちに強張っていき、やがてオレに怒気の籠もった声を放つ。


「様々な能力を持った魔物の派遣事業……略して魔材派遣とはな……貴様、我々を人間の格下に置こうと言うのか!? 一体何が目的だ!! 返答次第では……!」


 バッ!!!


「説明不足で大変申し訳ございませんでした! それではここからは口頭で説明させていただきますが、実はこちら王都公認の事業となっておりまして、王国と魔王様両方に資するものと確信しております」

「は?」

「私共の国では、近年高齢化と労働人口減少が問題になっております。そこで様々な能力を持つエキスパートを適切な地域に派遣することでその問題を解決しようとしております。私が活用していたレンタル魂もそういった事情によるものです」

「そうなのか」

「一方、魔王軍の皆様は我々人間よりも長寿かつ年功序列制が敷かれているため、逆に労働人口が有り余っているとか。身分の固定化や才能ある魔物が希望する職種にありつけないといった問題が発生しているそうですね。人間との戦争に打って出たのも魔の国で民衆の不満が高まり、軍事行動による雇用の創出や経済再生を狙ったことが要因だったと聞き及んでおります」

「よく知っておるな」

「お褒めに預かり光栄です。以上から、魔材派遣事業にご協力いただければ、人間にとっては人手不足の解決、魔王様にとっては新たな雇用やキャリアパスの創出とお互いに多大なメリットがあると見込んでおります。なんとかご検討いただけないでしょうか!?」


 オレは再びお辞儀をし、じっと返答を待つ。

 表情は見えないながらも、魔王がフゥッとため息をつく音が聞こえた。


「よくわかった……その話、お受けいたそう。薄々は気付いておったのだ……暴力では根本的な解決にはならぬとな……」

「ありがたき幸せ! では私はこれより王都へ戻り、王へこの事を報告して参ります」

「ああ……グリフォンの輸送部隊に話を通しておく。帰り道は心配するな」

「ははっ! 行く行くは王との会談などご案内することになるかと存じますが、詳細は改めて連絡させていただきます。その際は何卒よろしくお願いいたします。それでは!」





「とんでもない奴だったな……人間の軍にはこれまで、我々と互角に戦う猛者こそあれど、このような交渉を持ちかける者は今まで誰一人として居なかったのだぞ……。魂をレンタルして戦う勇者だったか……どんな魂を借りて交渉に臨んだと言うのだ? もしや資料に書いてあるか?」


 魔王がぱらぱらと読みかけの資料をめくっていくと、末尾に綴じられた控えめな自己紹介ページに目が止まった。


『経歴:36歳で異世界転生を果たす。前職となった四菱商事において培った飛び込み営業のスキルを活かし、王家直属の交渉人として第二のキャリアを始める』


「あぁ……そこだけは持ち前のやつだったかぁ……」

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