第15話 アイン・ユスディーツ
「どうした、出ろ」
イレイズと話したからか、今の私には少しだけ人間らしさがあるらしい。目の前の男の言うことを素直に聞けない自分が顔をのぞかせる。
金髪の短い髪を立て、屈強な鋼のような肉体に鋭い刃物のような眼光を併せ持つ【黒鉄】のアイン・ユスディーツ大佐。
私の剣でもこの檻は壊せない。想像力やイメージで刻印の力を増加させる。ユスディーツ大佐は曲がらない信念、絶対的な正義を胸に宿しているらしい。
折れない正義は彼の黒鉄を最硬たらしめる。
「早くしろ。私も忙しい」
2度目は警告。嫌がるからだに鞭を打ってユスディーツの開けた檻の穴から出る。
「次は何? あと何回国の戦争に行けばいいの」
「次の任務はゲシュテンフェルトの防衛だ。貴様は王の傍で敵を仕留めろ」
「王の傍……? 今まで最前線だったのに急に後ろなのね」
死んでも死なない刻印の性質上、ヘルティは実質無限の兵力となる。となれば切り札として残しておくのではなく、最高火力を最前線に送り続けるのが策としてはシンプルで強い。
それが8年間で初めて王の傍付きを命じられる。ゲシュテンフェルトの防衛ではなく王の護衛。都市の中枢に迫る敵が現れるとユスディーツは予期しているのだ。
「参謀の【予言】からの情報だ。まず間違いないだろう」
「敵は?」
「見たことの無い刻印の単独犯らしい。未知の未来は読めないと嘆いていた」
「ふぅん……」
未知の脅威。アイン・ユスディーツ大佐や神童と呼ばれたブレン・シュトルフ少佐、5つの刻印持ちの私など粒ぞろいの王国軍に全面戦争を仕掛ける輩はこの8年でぐんと減った。
それもそのはず、殺したはずの女がどこの戦場でも現れ続けるのだからいたずらに命を消費するだけだ。
それが戦争の落ち着いたタイミングに単独で王の命を狙う敵が現れた。
(正直、何が起きるのか予想できないな……)
【賢者】の知恵を有しても【予言】と同じだ。知らない知恵は振れない。事が起きるまでまだ見ぬ王を護るために動くしかない。
村への仕送りも王の護衛ともなればかなり高額だろう。村になにか施設でも建てようかと受け取ってもいないお金の使い方を考える。
「時刻は本日の夜らしい。それまで待機しろ」
「……了解です」
ユスディーツはカツカツと規則的な足音で部屋を後にする。人が離れたあとは音ひとつない静かな冷たい檻があるだけの部屋だ。
数時間の待機を命じられつかの間の休息を得る。空き時間に戦場に派遣しないのは万が一にも王の護衛が間に合わないことを危惧してだろうか。
何もすることの無い部屋で檻によりかかり、何度も眺めた折れ線のついている村を出た時に渡された手紙を慎重に開いた。
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