第11話 重力

「なんだ、攻めてこないのか……」


 1人の頭を消され、もう1人は重力で潰した。重力場を解除せずその場に仁王立ちしながら見えない敵の動きを待つ。


(俺は重力場でここから動けない。かといって攻撃手段が分からないのに範囲を上げて重力が下がれば遠距離から食らう可能性がある)


 グァラビは自身の円形範囲の重力場でその場から動けない。全く見えないイレイズの攻撃手段が五指で触れることだとは歴戦の猛者だろうと気づけない。

 1番可能性が高いのは遠距離から放たれる空気の圧縮弾に似たものだろうと、グァラビは踏んでいた。

 頭と脚で2回の攻撃を見たが周りには何も影響がなく、痕跡も残らない。刻印持ち同士の戦いは相手の能力の把握が最優先だ。潰すという作用がなければグァラビの刻印も初見では判断に迷う部類だろう。


 円形3mの高重力空間の中でイレイズが残すはずの痕跡を必死に探す。葉も揺れない、木も音がならない。それどころか森のさざめきや動物が生きているだけで鳴らす音が嫌にうるさく響く。


 それもそのはずイレイズは初撃の踏み込み以降、足をその場から動かさず敵の頭、脚と消して今は座り込んでいる。動いていない消えた人間を環境音で捕えることは不可能だろう。

 ましてや遠距離を警戒し重力場の密度を変えない守りの姿勢に入っている時点で、グァラビはイレイズを見つける手段を逃し続けている。


 一方イレイズも完全に攻めあぐねている。座り込んで重力場を眺めているのがいい証拠だろう。ヘルティを潰したこの男を殺してやりたいがこの高重力の空間を数m動くのは厳しいものがある。

 

(どうしようかな。ヘルティを何度か殺してそうなこいつらは消しておきたいけど、無闇に突っ込んでも負けちゃうよな)


 右手の刻印をグァラビに向けながらどう消してやろうかと思索する。感知されないのをいいことに指を入れると凄い力で地面へと引き寄せられる。

 重力というものを学んだことの無いイレイズはなにか重い風の塊のようなものを想像して【消失】を試すが重力へは干渉できなかった。

 指が折れる前に引き抜き正面突破を断念する。そこからイレイズの行動は早かった。

 決まって下向きに押し付けられる力。なら上から右手を当てれば【消失】を当てられる。

 重力に押しつぶされるなど、重力を知っていれば嫌がるだろうことを無知ゆえに簡単に行動に移す。


 森の中だから足場には事欠かない。気をのぼりグァラビから斜め上方向にある木によじ登り、右手を下に向けて飛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る