第10話 刻印持ちの戦い
「ぷぁ?」
「何変な声出しやがる」
「お、お前! 頭が!」
「いや、ぷぁにぴっへ……」
どさり
森の綺麗な緑に汚い赤が混ざり込む。膝から崩れ落ちた頭頂部の足りない人間が血を撒き散らす。
「うわああああああ!」
「落ち着け、肉塊と変わらねぇ」
頭半分を消され断面をもろに見たのか、同僚と思わしき男が声を上げる。
(ミンチになったヘルティは笑えて仲間の男は笑えないのか)
存在を消しているイレイズは声をあげない。心の中で黒い感情を滾らせながらグァラビの後ろにいたもう一人の男の脚を右手で救う。
平で触れられ一瞬重心が崩れた瞬間に握り込む。手の形に脚がむしり取られ、長さの変わった足が地面をけれずに尻もちを着く。
「あ、脚がァ! グァラビさん、神隠しです! ゲシュテンフェルトの森には神隠しがいるんです!」
「うるせぇ、確実に刻印持ちだ。俺の重力場に引っ掛からねぇ……。何の刻印だ……」
「グァラビさん! 重力場を消してくだざい、俺まで潰れまず!」
「うるせぇ、刻印も使わず脚を消される馬鹿はいらねぇ、後ろをついて来てただけだろ。勝手に死にな」
グァラビはこの状況下でも自身の周りにすぐさま重力場を作り出し、近づく敵の索敵を始めていた。
しかし、消えるだけの刻印では無い。消失は意識した対象が消せるならその全てをこの世界から消す。解除にはこの世界に痕跡を残さなければ【千里眼】などの刻印がないと知覚できない。
【重力】を操るグァラビの重力場での索敵はこの世に存在していないイレイズを捕えることが出来ない。正確には重力の揺らぎで捉えていることに気づけない。
刻印は世界に干渉する力では無い。ただ刻印の主が発揮する個性に過ぎない。イレイズも人から知覚されなくなり、イレイズが鳴らす足音や揺らす空気などは他の人から知覚できない。この場合、重力場に踏み込めば重力に押しつぶしながらイレイズを知覚できないということも起きうる。
そしてイレイズの【消失】の刻印で消えた状態での刻印の行使は有効だ。同じ刻印なら後に使うものが有効なのは自然の道理だ。結果、後ろの2人に不可視の消失は面白いように当たった。
(でも最後のこいつ……厄介だな)
しかし、重力場でいくら感知されないとはいえ、ただ見えない感じないだけで確かにそこにいる。あと一歩踏み込めばイレイズの右手は届かずに地面を手の形に消すことになるだろう。
円形範囲に高重力の空間を展開するグァラビ相手に攻め込むタイミングを逃した。
グァラビに手間取るのを嫌い最初に人数を減らそうと2人を無力化したが、初めに狙うべきは1番強い彼だった。
(反省だな……まぁ、もう人を消すことは無いと思うけど)
17年感じていた重力を消すイメージが持てない。イレイズは染めあぐねて重力ギリギリの場所でグァラビを眺めていた。
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