第6話 出会い

「何を言ってるんだ……」

「神隠しも喋れるんだ」

「そりゃ言葉くらい……」

「最近の神隠しって凄いのね」


 凄くマイペースな女のようでこっちの言葉はお構い無しという様子。髪をくりくりと弄りながら僕のことをまじまじと見つめる。


「その、神隠しって何?」

「この森にいるのに貴方知らないの? この森は色々なものが消えるって有名なのよ。今では小さい子は森に入ってはいけないって言い伝えまでできてるんだから」


 恐らく消しているところを見られたが、気配を消していたから気づかれなかったとその辺だろうか。ただ危険物を消しただけなのだから子供たちが尾ひれを付けて親たちに話したのだろう。

 親も親で森に足を踏み入れさせたくないがために神隠しなんてもので怖がらせるために、さらに尾ひれを付け足したところか。


「誤解だよ。僕が神隠しなんて」

「さっきまで気配を消していたくせに何を言ってるの、私の目はごまかせないわ」

「……刻印か」

「そ、【千里眼】の刻印。どれだけ距離が離れていようが見ようと思ったものを見る力。貴方ほど上手く隠れられる人は近づかないと見つからなかったけどね」


 やっかいな刻印だ。今から気配を消して記憶を消すにはこの千里眼が邪魔すぎる。森ですごした平和な一人の時間は空気の読めない一人の女に打ち砕かれた。

 イレイズは諦めたかのように話を聞こうと自分に向けていた右手を下ろす。


「で、僕に何の用?」

「さっきの言葉が全てよ。私を消して欲しい。貴方の力で存在そのものを」

「この森は自殺者も多い。好きに過ごせばいい」

「それだけじゃ死ねないの」

「死ねない? 何日も飲まず食わずでいれば人は死ねるさ【千里眼】じゃ死なないなんてことは……」


 人間なら誰でも死ねる。【消失】で空腹や飢えを消し去りながらでも栄養のために最低限食事を確保している。それなのにただ目がいいってだけの刻印に不死性や回復の力は無いはずだ。

 女を訝しみながら眺める。【千里眼】の刻印の入った橙色の瞳は珍しいからか僕を引き込む。

 目が離せず思考がまとまらないうちに解答を話始めた。


「死なないのは【復活】の刻印のせい」

「……へ?」

「この刻印がある限り死んでも設定した復活地点に死亡する直前の状態で生き返るわ」

「いやいや」

「だから死ぬ事が出来ないから神隠しに頼もうと思ったわけ」

「ちょっと待った。君、刻印の複数持ち?」

「あ、神隠しさんは私の事知らないのか。私はヘルティ・イーア。勇者ヘルティって誰でも知ってるんだけど、その顔は知らないかな?」

「勇者……?」


 突然のカミングアウトに時間の流れが追いついてないイレイズは疑問符を浮かべた。

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