第4話 動画公開中 https://www.youtube.com/watch?v=FMW5iEHCevI

水色の火花がちかちかと煌めく広い海の上を、白亜の堤防が滑走路のようにまっすぐのびている。水着姿の彼女は僕の手を掴んだまま、ハミングしながら先を歩いた。水平線に浮かんでいた漁船はいつのまにか消えていて、世界には波と風の音以外、音をたてるものは何ひとつなかった。僕の耳の奥で、血液が流れる音がさらさらと響いているのがわかった。

 堤防は立ち入り禁止の看板の前で終わっていた。そこから先には、いくつもの巨大なテトラポットが積み上げられていた。海の中を覗くと、海中にも無数のテトラポットが沈んでいるのが見えた。

 彼女は何の迷いもなく、海の上のテトラポットに飛び移った。彼女は僕に振り向くと、躊躇している僕を安心させるみたいに、にこりと微笑んだ。

『―だいじょうぶやって。』

彼女はそう言いながら小さな手のひらを僕に差し出した。僕はおそるおそる手を伸ばし、その柔らかくて熱い手のひらを掴んだ。そして僕はジャンプした。

 テトラポットの上は、足場が狭くてひやりとした。足元を見ると、幾重にも積み上げられたテトラポットの影とゆらゆら揺れる海面があった。

『こっち。』

彼女は僕の肩をつつくと、テトラポットの上をしなやかな猫のように飛び移っていった。僕は彼女の水着のお尻を必死で追いかけた。

 テトラポットの山を越えると、うらびれた岩場にたどりついた。まさかテトラポットの山の向こう側に、こんな場所があるとは思わず、僕は息を呑んだ。バラ色のごつごつとした岩がいくつも海の中から隆起し、古い時代の神殿の柱みたいに連なっていた。岩の柱の奥は小さな入江になっていて、白い砂の道がそこまでのびていた。その場所はまるで壮麗な廃墟の光景みたいだった。

『秘密の入江へ、ようこそ。』

彼女はそう言うと、二メートルくらいあるテトラポットの上から砂地へ素早く飛び降りた。着地の瞬間、彼女はよろめいて砂地に尻もちをついた。いっぽう僕は、テトラポットの上からなかなか降りることができなかった。

『―ねえ、友達って、女の子?』

テトラポットの上から、僕は彼女に向かって呼びかけた。彼女は水着のお尻についた砂を払いながら、僕を見上げた。

『うん。そうやよ。』

彼女はスニーカーをその場で脱ぎ、裸足になった。

『―まだきてないみたいだけど。』

『きてるよ。』

彼女は僕が何も気づかないのが可笑しくてたまらない、というふうに微笑んだ。僕は無人の岩場の影と入江を交互に見つめた。

『―どこに?』

『そこで見てたら、わかるよ。』

彼女はそう言って、手に持っていたラッシュパーカーを僕にほおり投げた。

 そして彼女は、僕に背を向けると砂の道を駆けだした。

『いくよ!』

彼女は入江に向かって愉しそうに叫んだ。

 それを合図にするみたいに、入江の海面の一部が銀色に粟立った。

 そして海面が灰色の塊とともに隆起し、大量の水飛沫がはじける音が入江にこだました。

 入江に現れたのは、ゴンドウクジラの艶やかな灰色の背中だった。

『―クジラか!』

僕は歓声をあげた。

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