第7話 ウルトラヴァイオレット

「ラララー!」


 赤人魚はサンゴーを視認するや否や歌いながら凄まじい速さで突進してきた。

 サンゴーは突然の接近に反応できず、腹部に強烈な頭突きを食らった。


「フゴォ!」


 ぼごぉ、とマスクから巨大な泡を吐き出すサンゴー。


「クリー!」


 クリちゃんがくるくると泳ぎ回るも資源回収用であるクリちゃんに攻撃手段はない。


「赤人魚は獲物を見つけると突進してくる! ブラックライトを使って動きを止めろ!」

「フ、フゴォ!」


 サンゴーは義手のブラックライトを起動して赤人魚に浴びせた。


「ギャアアアア!」


 すると赤人魚の皮膚がたちまちただれ、絶叫しながら両手で顔を覆い隠した。


 サンゴーはその隙を逃さず赤人魚の頭部を両手で掴むと力づくで回転させた。


 百八十度首を回転させられた赤人魚は完全に沈黙し、ぐったりとしたまま水の中を漂い始める。


「殺したか……だがすぐに復活する。そろそろ引き返すべきか……」

「フゴッ! フゴッ!」


 まだやれるぞ、とでも言いたげに鼻息を荒くするサンゴー。


「ふん、それだけ元気なら心配無用だな。念のためいっておくが、お前はすでに死者とはいえダメージを受け続ければやがては行動不能になる」

「フゴフゴ」

「さっきクリちゃんが地上まで引き上げてくれるといったが、当然だがクリちゃんのストレージは有限だ。お前の体積分容量が圧迫される。つまりせっかく集めた資源の大半はその場に置き去りというわけだ。だから可能な限り生きて帰ってこい。わかったな?」

「フゴッ!」


 サンゴーはどん、と胸を叩いてさらに奥へと進んだ。


 豪奢な観音扉を開くとそこは大量のテーブルがぷかぷかと浮かぶ宴会場になっていた。

 

 室内には青い鱗を持つ人魚が数匹泳いでいる。


「青人魚か……奴らは高水圧の水を噴出してガラクタを飛ばしてくる遠距離攻撃特化型だ。幸いここは広い。テーブルを盾にしながら無視して進め」

「フゴ」


 青人魚がナイフやフォークを飛ばしてくるも、サンゴーは無視して先へと進む。


 唯一の光源である人魚の鱗を頼りに薄暗い船内を探索していると、戦車が格納された部屋に到着した。


「ここは倉庫か……流石に戦車は持ち帰れないが銃器の類は島の防衛や漁に使えないこともない。回収してこい」

「フゴッ! ……フゴォ?」


 サンゴーがぽぽぽーいとクリちゃんのグロテスクな頭を直視しないように資源を投げ渡していると、ひときわ巨大なアタッシュケースを発見した。


「なんだそれは? 開けてみろ」


 博士の指示に従い金具を外すサンゴー。横長の蓋を開けると中には淡く青色に発光する片刃の剣が入っていた。


「しめた! ウルトラヴァイオレット・ウェポンだ!」

「フゴッ?」

「キヒヒ、ウルトラヴァイオレット・ウェポンとは対人魚用に開発された紫外線兵器のことだ。完全に殺すことはできないが少なくとも一回の探索中くらいは時間を稼げるだろう」

「フッゴーイ」

「今お前すっごーいていったか? ……まぁいい。そいつはお前がもっておけ。ただしお前の生体電気を流用しているブラックライトと違ってその武器にはバッテリーに限りがある。あまり不用意に使うな。さっきみたいに無視できるときは極力無視していけ」

「フゴ」


 ヴァイオレット・ソードを背負い、サンゴーとクリちゃんは沈没船の深部へと足を踏み入れていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る