第5話 クリちゃん

「おいサンゴー。聞こえるか?」

「フゴッ? フゴゴ⁉」


 突如聞こえてきた博士の声に驚き周囲を見渡すサンゴー。

 当然だが博士の姿は見えない。


「なにをそんなに狼狽えている? まさかわたしがそこにいると勘違いしているのかこの馬鹿者め」

「フゴッ……」

「いいか、お前の頭には骨伝導通信機とカメラが内蔵されている。それによってわたしはお前が見ている景色を確認しつつ安全な場所から指示をだせるわけだ。わかったな?」

「フゴッ!」

「うむ。お前は馬鹿だが理解が速くて助かる。それと回収した資源を保存するためのドローンも送った。待ってろ、まもなく到着するはずだ」


 博士の指示に従ってしばらくぼぅっとしていると、丸窓から人型の物体がにゅるりと入ってきた。


「クリー!」


 可愛らしい鳴き声とともに入ってきたのは全長四十センチほどの巨大なクリオネのようなドローンだった。


「フゴッ」

「到着したようだな。それは水中資源回収用ドローンのクリオネラ。お前が回収した資源を体内に取り込んで保存するストレージボックスだ。万が一お前が行動不能になった時に地上まで引き上げる脱出ポッドの役割ももっているからぞんざいに扱うなよ? ちなみに愛称はクリちゃんだ」

「フゴッ」

「クリクリー!」


 サンゴーがクリちゃんの突起が生えた半透明の頭を撫でると、クリちゃんは嬉しそうに鳴いた。


「さあ探索の時間だわたしの下僕ども! 馬車馬のように働くのだー!」

「フゴーッ!」

「クリー!」


 船室の扉を開くサンゴー。暗い船内を右腕の義手に装備されていたライトで照らしつつ進んでいく。


 船内の廊下には剥がれた鉄板や折れ曲がった配管などが落ちている。どれを拾えばいいのかわからないのでひとまず手当たり次第に拾っていく。


「フゴ!」

「それはゴミだ」

「フゴゴ!」

「それもゴミ」

「フゴゴゴゴ!」

「ゴミだっつってんだろうが馬鹿者!」

「フゴォ……」


 しゅん、とうなだれるとクリちゃんが「クリー……」と鳴きながら背中をさすってくれた。


「ひん曲がった鉄パイプだとか穴の開いた鉄板なんぞ回収して何になる! もう少し考えて物を選べ!」

「フ、フゴッ!」


 さらに探索を進め、とある客室で木箱を発見し、じゃあこれはどう? という感じで指さすサンゴー。


「ふむ、木箱か。木箱の中には缶詰などの食料が入っている場合が多い。とりあえず開けてみろ」

「フゴ?」

「お前の無駄にデカい体は何のためにある。蹴って壊せばいいだろう」


 いわれた通り木箱を蹴り壊すと、なかから大量の缶詰ができてきた。


「よしよしいいぞ! それはクリちゃんに飲み込ませて持って帰れ! 偉いぞサンゴー!」

「フンゴッゴ! フンゴッゴ!」


 初めて褒められ鼻歌を歌いながら缶詰を拾い集めるサンゴー。

 両腕いっぱいに抱えた缶詰をクリちゃんに差し出すと、クリちゃんはプルプル震えだした。


「フゴ?」

「クリ……クリリ……ぐばあああああああああ!」


 突如クリちゃんの頭部が四方に割けて中かからオレンジ色の触手が伸びてきた。


「フゴオオオオオオオオオオ⁉」

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