第4話 いざ水没世界へ
「まてまてまて、お前いまからどこへいってなにを回収するかわかっているのか?」
「フゴ?」
ぴたりと足を止めて振り返るサンゴー。そういえば資源といわれてもなにをもって来ればいいのかわからない。
くるりと振り返ると、博士がお腹の当たりをぼすん、と殴って「馬鹿者!」と怒鳴った。
「フゴ……」
サンゴーは猫背気味でありながら二メートル近くもある巨体をしゅん、と小さくして俯いた。
「水中ドローンの情報によるとこの真下には巨大な輸送船が沈んでいる。お前はその沈没船に侵入して缶詰や魚介類などの食料、鉄や木材などの資材、あとなにかしらのグッズを回収してくるんだ」
「フゴ! フゴ……? フッゴッゴ?」
「なに? グッズってなんだって? んなもんわたしを喜ばせる物に決まってるだろうが」
「フゴッ!」
指で輪っかを作って必死にジェスチャーするサンゴー。
そんな彼を博士は眉間に縦皺を刻みながら睨みつけた。
「ああん? いっておくが指輪だとか宝石だとかそんなもんはいらんぞ。わたししかいないこの人工島で着飾ってどうする。水着と白衣があれば万事オッケーだ。そういうものじゃなくて、もっとわたしが嬉しくて叫んじゃいそうなものをもってこい」
「フンゴゴゴゴ……」
あまりにも抽象的な要求に頭を抱えて体を捩るサンゴー。彼はほとんど機能していない脳みそをフル回転させるも、いまいち博士の指示が理解できない。
「足りない頭で悩むな馬鹿者! あー、とりあえず今欲しいのはバイブレーターだな。強力な奴」
「フゴ?」
「なにに使うかって? ……お前、バイブレーターがなにかわかっているのか?」
「フゴゴゴゴゴゴゴゴ!」
巨体を小刻みに震わせるサンゴー。博士は腕を組んで「うむ!」と頷いた。
「わかっているじゃないか。その名の通りバイブレーターってのは振動する物のことだ。ってことはまぁつまり気持ちいいことに使うんだよ」
「……フゴ?」
「あ? なんだその目は? 気持ちいいことがなにかって? お前には無縁の感覚だこの不感症め。くだらん詮索をしてないでさっさといってこい馬鹿者」
「フゴッ!」
博士に急かされ、サンゴーは切り取られた床に飛び込み海の底へと潜っていった。
青い海は沈んでいくほど暗くなっていく。
ところが不思議なことに、底のほうはうっすらと薄緑色に光っていた。
倒壊したスカイツリー。
半壊した新宿駅。
境目の消えた不忍池。
眼下に広がるのは、かつて東京と呼ばれていた街。
サンゴーはマスクの端からぶくぶくと泡を吐き出しながら沈んでいく。体重二百キロ近い彼はさながら鎖の千切れたイカリのように落ちていく。
やがてスカイツリーをなぎ倒す形で沈没している一隻の船にたどり着き、丸窓の中に体を滑り込ませた。
どうやらここは客室のようで、二段ベッドやトランクケースなどが部屋中に散乱している。
無事に船内に侵入すると、突如ノイズが聞こえた。
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