第3話 無限の労働者
「フゴッ?」
「なんだ? まさか心臓が止まっているのに生きているのが不思議なのか? なるほど、その程度の知能は残っているというわけか……。キヒヒ、これはなかなか当たりだな」
博士は眼鏡のブリッジを押し上げながら小悪魔的な微笑を浮かべた。
「お前は三か月ほど前、この人工島サンクチュアリの漂流物回収ネットに引っかかっているところをわたしが拾ったのだ。すでに瀕死だったお前を食わずに回収した理由はただ一つ。このなにもかもが海の底に置き去りにされた世界で、わたしの代わりに海に潜って資源を回収する役目を担うためだ。わかるな?」
「フゴッ」
「よーしよーし。お前は利口だな。お前の体は人間をベースに人魚の肉と機械化によって死にながら活動しているゴーレム。いや、ダイバー・ゴーレムだ。ようはお前はすでに人ではない。ゆえにお前を守る法も存在しない。せいぜいわたしのために無限の労働に励むのだ! キヒヒ!」
「フゴッ!」
ゴーレムは博士に頼られたとたん全身に力が漲るのを感じた。
主に忠誠を尽くすことが唯一の存在意義であるゴーレムの本能が刺激されたのだ。
「喜んでいるのか? キヒヒ、可愛い奴め。そうだ、お前に名前を与えてやらねばな……名前は……そうだな……サンゴーでどうだ?」
「フゴゴッ?」
「なに? 一号と二号はいるのかって? そんなもんはいない。いないからといってサンゴーと名付けてはいけない理由でもあるのか? いやない。この島ではわたしが法だ。わかったか」
「フゴッ!」
力強く頷くゴーレム改めサンゴー。
いかに独善的で倫理観が破綻していようとも、彼にとって博士のいうことは絶対なのだ。
「よしよし、物分かりのいい奴だな。素直さは愚者の賢い生き方だ。それじゃあサンゴー。お前にはさっそくそこの穴から海に潜って資源を回収してもらうとしよう」
そういって床の穴を指さす博士。
「フゴッ!」
サンゴーは診察台から降りると、穴に向かってずんずん歩いていった。
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